PM 23:00 日記・就寝
居住区の照明がゆっくりと光量を落とし、天井のパネルには深いインディゴブルーの夜空が投影される。
セイヤは机に向かい、最後の一行を日記に記した。
『本日、艦内秩序に大きな乱れなし。特記事項:食堂における意思表明。概ね良好な反応を得る』
ペンを置き、ふう、と短く息を吐く。
眼鏡を外し、ケースに収める。視界がわずかにぼやけるが、それもまた一日の終わりを告げる合図のようで心地よい。
窓の外に目を向ければ、そこには本物の宇宙が広がっている。音もなく、果てしなく、そして無慈悲なまでに静寂な真空の世界。
その過酷な暗闇の中で、このコスモ・アカデミア号という小さな揺りかごが、何千人もの命を乗せて進んでいる。
かつての彼は、秩序とは「規則」そのものだと思っていた。だが今は違う。リュウジの騒がしい笑い声、ミリィの突拍子もない提案、そしてエミリアが時折見せる、胸を締め付けるような柔らかな微笑み。
それらが明日も同じように繰り返されること。誰にも邪魔されず、誰もが安心して「いつも通り」を享受できること。
そのための土台こそが、彼の守るべき秩序なのだ。
「……おやすみ、エミリア」
誰もいない部屋で、彼は小さく呟いた。
その言葉は、規律正しい彼の生活の中では珍しい、甘やかな響きを含んでいた。
ベッドに入り、毛布を胸の高さまで真っ直ぐに引き上げる。
今日も守れた。
大きな事件はなかった。
けれど、そこには確かな温度があり、
明日へと続く希望があった。
宇宙は静かに回り続ける。その広大な暗闇の片隅で、宇宙一真面目な生徒会長は、満足げに瞼を閉じた。
明日もまた、AM6:00に、彼の完璧な一日が始まる。



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