宇宙一真面目な朝、あるいは守るべき秩序について
人工朝日が、ゆっくりとその輝度を増していく。
巨大な宇宙船『コスモ・アカデミア号』の居住区が、眠りから目覚めへと静かに切り替わるこの瞬間を、セイヤは好んでいた。
AM6:00
天井の環境制御パネルが淡い光を帯び、半球型の窓の向こうで遠い星々が溶けるように薄れていく。
セイヤの自室は、自身の性格を映したように整然としていた。クローゼットの制服はミリ単位の狂いもなくハンガーに掛けられ、机の上には教科書とノートが背表紙を揃えて並んでいる。壁に貼られた自筆の「風紀心得」だけが、この部屋で唯一の主張だった。
鏡の前に立ち、襟を正す。ボタンを上から順に確認し、最後に銀縁のメガネをかけた。
「今日も、秩序を守る」
鏡の中の自分に小さく敬礼した、その時だった。
「……朝から戦争でも始まるの?」
呆れたような声が、開いたドアの隙間から滑り込んできた。妹のカナだ。
「始まらせないための準備だ」
「はいはい。でもお兄ちゃん、寝ぐせついてるよ」
指摘されても、セイヤは動じない。それもまた、修正すべき一つの乱れに過ぎないからだ。
AM 6:45
学園区画へと続く透明回廊。外には無限の星海が広がり、足元では人工重力が心地よい安定を生んでいる。まだ人のまばらな通路に、自分の足音だけが規則正しく響く。セイヤはこの静寂を愛していた。乱れのない朝は、それだけで美しい。
AM 7:00 生徒会室
半円形のガラス窓から差し込む柔らかな光が、長机に並んだ電子タブレットを照らしている。
予定表を確認していると、背後で自動ドアが滑らかに開いた。
「おはよう、セイヤ」
銀髪のポニーテールが、朝の光を反射して揺れる。エミリアだった。
「おはよう。今日も共に秩序を」
「はいはい。普通に『おはよう』だけでいいのに」
苦笑しながら、彼女が隣のデスクに座る。
二人の間に流れるのは、慣れ親しんだ作業の音だけだ。書類を受け渡す際、指先が触れそうになる。だが、決して触れない。その数センチの距離が、セイヤにはひどく遠く、そして尊いものに感じられた。



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