AM 8:10 艦内パトロール
学園区画と生活区画を結ぶ大通路。セイヤは鋭い視線で周囲を検分する。掲示板のポスターが数ミリ傾いているのを見逃さず修正し、床に落ちた小さな糸屑を拾い上げる。
「あ、会長! おはよー!」
前方から、秋田犬のゴンを連れたチカがやってきた。
途端、ゴンが「ワン!」と鋭く吠え、セイヤに向かって突進してくる。
「なぜ私にだけ吠える。私は常に規則正しい歩行を心がけているはずだが」
「あはは、多分セイヤ先輩が真面目すぎて、ゴンも背筋が伸びちゃうんだよ!」
チカの笑い声が廊下に響き、セイヤは困惑しながらも、その騒がしさをどこか許容していた。
AM 8:30 講堂での朝礼
ホログラムの投影台に立ったセイヤは、全校生徒を前にマイクを通さずとも響く声で告げる。
「本日も、各自が自律し、秩序ある行動を心がけよう。以上だ」
簡潔すぎる挨拶に、生徒たちからは苦笑混じりの拍手が送られる。
だが、その視線には確かな信頼が宿っていた。
AM 8:50
午前の授業は、数学や物理学、宇宙法といった座学が続く。セイヤのノートは、講師の板書よりも美しく整理されていた。
PM12:40 中庭
人工芝が広がる中央には、この船の象徴であるクリスタル状の巨木がそびえ立っている。
風紀組のメンバーが円になって座り、弁当を広げる。クロが銀色のパックからゼリーを吸い、リュウジが大きな口でサンドイッチを頬張る。
「今日のお弁当、彩りがきれいね」
隣に座るエミリアが、自分の弁当箱から唐揚げを一つ箸で摘み、セイヤの口元へ差し出した。
「……いる?」
セイヤの思考が、コンマ数秒停止した。
ここは開放空間。公共の場。風紀委員長としての立場。そして、周囲の視線。
「早よ食えって。見てるこっちが恥ずかしいわ」
リュウジの茶化すような声に背中を押され、セイヤは意を決してそれを受け取った。
「……うまい」
エミリアが花が咲くように笑う。その笑顔は、午後の柔らかな光よりもずっと眩しかった。
敬礼しながら、セイヤはふと思う。
こうして皆が笑っていられる時間を守ること。それこそが、自分が掲げる「風紀」の本質なのだと。



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