前回のあらすじ
遭難から帰還したセイヤたちは、極寒の惑星フロストガルドの開発任務を命じられる。艦に残るよう告げられていた書記のエミリアだったが、セイヤは彼女の能力が任務に不可欠だと艦長を説得。準備を整えていたエミリアも同行を許可され、生徒会メンバーは全員で新たなフロンティアへと、誇り高く旅立つのだった。登場人物紹介
■ セイヤ 風紀を愛する生徒会長。今日も正論で突っ走る。
■ ポックス 冷静沈着な副会長。論理を愛するバルタン星人。
■ クロ 感情を得ようとする推定10億歳のアンドロイド。
■ リュウジ 頼れる幼馴染。仲間思いの生徒会メンバー。
■ ギル 岩石星人の風紀委員。見た目は怖いが五つ子の父親。
■ カズマ 新聞部の特ダネ記者。艦内の噂話ならお任せ。
■ エミリア 生徒会書記。優秀な参謀役でセイヤの彼女。ミリィの姉(双子)
■ ミリィ 明るく元気な医療部志望。リュウジの彼女。エミリアの妹(双子)
■ ヴァル 穏やかな流体生命体。優しさ溢れる癒やし担当。
■ドカヤマ課長 建設会社の責任者。セイヤに振り回されがち。
■ハンク艦長 コスモ・アカデミア号艦長。豪快な性格。
■ポックル副長 コスモ・アカデミア号副長。冷静沈着。ポックスの父親。
■セイゴ コスモ・アカデミア号操舵士。誠実な性格。セイヤの父。
■リュウジロウ コスモ・アカデミア号機関主任。リュウジの父。
第1章 「新たな季節」

三ヶ月に及ぶフロストガルド開発計画を完遂し、大型輸送シャトルがコスモ・アカデミア号の巨大な格納庫へと静かに滑り込んできた。重厚な着陸脚が鈍い音を立ててデッキへ接地した瞬間、静寂を切り裂くようにして、格納庫の隅々にまで割れんばかりの拍手と歓声が響き渡る。
「帰ってきたぞ!」
「フロストガルド開発隊の帰還だ!」
誰からともなく上がったその声を皮切りに、整備員や医療スタッフ、機関部員、そして大勢の学生たちが、弾けるような笑顔で彼らを出迎えた。 やがて、重々しい駆動音とともにハッチがゆっくりと開いていく。 ハッチが完全に開ききると、真っ先に姿を現したのはセイヤだった。いつもと変わらぬ凛とした姿勢でタラップを降り、出迎えた面々に向けて力強く敬礼を捧げる。
「ただいま帰還いたしました!」
その声を合図に、格納庫内には地響きのような拍手が沸き起こった。続いてエミリア、リュウジ、ポックス、クロ、ギル、ミリィ、ヴァル、そしてカズマら生徒会執行部の面々が次々と姿を現す。
その顔つきは三ヶ月前よりもどこか逞しく、過酷な任務を乗り越えた自信に満ちあふれている。 出迎えたハンク艦長が、満足そうに深く頷いた。
「おまえら、実に見事な働きだった。よくぞ無事で戻ったな。……ご苦労だった」
「「「ありがとうございます!」」」
全員の声が一つに重なり、再び力強い敬礼が交わされる。
こうして、不可能とも思われたフロストガルド開発計画・第一段階は、完全なる成功という形でその幕を閉じたのだった。
その日の夕方。三ヶ月ぶりに戻った生徒会室には、いつもの穏やかな空気が流れていた。
「あぁ~~……やっぱここが一番落ち着くな」
リュウジは使い古されたソファへ勢いよく倒れ込み、深く息を吐き出した。
「でも、向こうも案外住みやすかったよね」
ミリィが楽しげに笑うと、ヴァルも穏やかに頷いた。
「そうね。大学も病院も、それに商業区画まで完成しましたから」
「現在の人口は九百八十七名。ライフラインは正常に稼働しており、居住率は九十八・六パーセントです」
クロが淡々と、しかしどこか誇らしげに数字を読み上げると、ポックスも手元のアナライザー・パッドを閉じながら言葉を継いだ。
「レゾニウム鉱石の採掘量も予定を大幅に上回りました。通信中継基地の運用も既に軌道に乗っています」
その報告を聞き、リュウジは天井を見上げて愉快そうに笑った。
「へっ、今じゃ立派な都市じゃねぇか。あの極寒の地で遭難してたなんて、今となっては信じられねぇよな」
「本当ね」
エミリアは、当時の光景を思い出したのか、呆れと懐かしさが混ざったような苦笑を漏らした。
「救助隊が到着したっていうのに、あなたたちときたら……。全員水着姿で、のんきにビーチで寝そべっていたんですもの」
すると、それまで黙って話を聞いていたカズマが、思い出したように吹き出した。
「あ、そういや最後まで揉めてたな、あの件」
「何が?」
ミリィが不思議そうに首を傾げると、カズマはニヤリと笑って答えた。
「ビーチだよ、ビーチ」
「あぁ……」
その一言で全員の察しがついたのか、視線が一斉にセイヤへと注がれる。
当の本人は、どこ吹く風といった様子で静かにお茶を啜っていた。
それは開発計画も終盤に差し掛かった頃の出来事だった。
回想~
建設会社の責任者(ドカヤマ課長)が、セイヤたちの前で広大な都市計画図を広げる。
「この人工ビーチですが、採掘基地の拡張計画に伴い、ここへ作業員用の休憩施設を建設することになりました。つきましては、ビーチは撤去させていただきます」
淡々と告げられたその言葉が終わるか終わらないかのうちに、鋭い声が飛んだ。
「反対だ」
セイヤが即座に、一点の曇りもない口調で断言した。
予期せぬ拒絶に、ドカヤマ課長が目を丸くして驚く。
「……理由をお聞かせ願えますか?」
セイヤは静かに、しかし威風堂々とした動作で椅子から立ち上がった。
「あのビーチは、我々が仲間と共に過酷な環境を生き抜いた証だ。
絶望的な遭難生活の中にあって、我々の希望を繋ぎ止めた象徴でもある。
安易に撤去するなど、断じて認められない」
~~回想終わり
その熱のこもった言葉に、隣にいたリュウジは思わず深く頷いた。
「へっ、たまには良いこと言うじゃねぇか」
エミリアもまた、当時の光景を思い出すように優しく微笑む。
「そうね……。あそこがあったから、あなた達は前を向けたのかもしれないわね」
ところが次の瞬間、セイヤは真剣な表情を崩さないまま、さらなる言葉を継いだ。
「だから私は、ドカヤマ課長と協議を重ね、地上により広大で設備の整った人工ビーチを新設することにした」
回想~
予期せぬ拒絶に、ドカヤマ課長が額の汗を拭いながら食い下がった。
「しかしセイヤ会長、これは軍部からも承認を得た決定事項です。工期を遅らせるわけには……」
「ならば、その『工期』の定義を書き換えよう」
セイヤは不敵な笑みを浮かべ、手元の端末から新たな設計図をホログラムで投影した。
「撤去に費やすコストと時間を、地上への『移設・拡張』に充てる。
幸い、地上の地盤調査は私が既に済ませてある。既存の資材を再利用すれば、予算内で三倍の規模のビーチが建設可能だ。これなら軍部も、福利厚生の充実という名目で納得するはずだが?」
「……なっ、いつの間にこれほどの試算を」
ドカヤマ課長が絶句する中、セイヤは静かに、しかし威風堂々とした動作で椅子から立ち上がった。
「安心しろ、ドカヤマ課長。君の彫像も、ビーチの入り口に『守護神』として設置する予算を組み込んでおいた。私はこの極寒の地に、銀河一の『サマー・パラダイス』を構築しようとしているのだ」
セイヤのあまりに真剣な、それでいてどこかズレた提案に、ドカヤマ課長は呆気にとられたように口を半開きにした。しかし、提示された完璧な移設計画と、何より「自分の彫像」という抗いがたい響きに、その頬がわずかに緩む。
「……わかりました。そこまでおっしゃるなら、やりましょう!」
ドカヤマ課長は力強く頷いた。
その表情は、もはや困惑ではなく、新たな大事業に挑む男の熱意に満ちあふれていた。
~~回想終わり
一瞬の沈黙。
「…………」
直後、リュウジの絶叫が室内に響き渡った。
「なんでそうなるんだよ!! 思い出の場所を守るんじゃなかったのかよ!」
「ハハハハハ、ドカヤマ課長の守護神像見てみたい」
ミリィが爆笑する。
エミリアは眉間に手を当てて深い溜息をつくなか、セイヤは至って真面目な顔で、淡々と理屈を並べ立てる。
「思い出は心の中にある。それに、採掘作業者の休憩施設が必要なのは事実だし、
何よりビーチは地上にあった方が開放感があるだろう。都市の観光資源としても極めて有効だ。
それに夕方になると夕日が海に沈むホログラム映像が絶景だ」
「経済効果も十分に期待できます」
ポックスが我が意を得たりと頷けば、クロも無機質な声で追従する。
「観光客の誘致において、最大級のメリットがあると判断しました」
「で、結局そのビーチはどうなったの?」
ミリィが呆れ半分、興味半分といった様子で尋ねると、カズマが誇らしげに胸を張る。
「大人気ですよ。海に沈む夕日を見ながら黄昏ているカップルが急増しているらしいです」
クロが間髪入れずに即答した。
「現在、フロストガルド最大の観光施設として登録されています」
「休日になると、家族連れやカップルですごい賑わいなんです」
ヴァルもその光景を思い浮かべるように、ふんわりと微笑む。
「……結局、結果オーライなのが一番悔しいぜ」
リュウジはがっくりと項垂れ、両手で頭を抱えた。
その様子がおかしくて、生徒会室は温かな笑いに包まれた。
その時だった。室内に、穏やかだがどこか厳かな艦内放送が流れ始める。
『全校生徒へ連絡します。来月より新年度が始まります。
つきましては、現二年生を対象とした「三年生進級説明会」を、第一講堂にて行います。
明日の朝、第一講堂に集まって下さい。』
賑やかだった生徒会室が、ふっと静まり返った。
「……もう、そんな時期か」
リュウジが、噛みしめるようにぽつりと呟いた。
エミリアは壁に掛けられたカレンダーへと視線を向ける。
そこには、フロストガルドでの激動の日々を終え、新しい季節へと向かう日付が刻まれていた。
「私たち、来月からはもう三年生なのね……」
その言葉に、誰もが少しだけ寂しそうな、それでいて誇らしいような複雑な笑みを浮かべた。
翌日、第一講堂。 二年生全員が集まり、熱気に包まれた会場の壇上に、ハンク艦長が重々しい足取りで立った。
「諸君」
その力強い声が講堂内に響き渡り、ざわめきが一瞬で静まり返る。
「来月から、君たちはついに三年生となる」
艦長の合図とともに、背後の大型スクリーンへ新たなカリキュラムが映し出された。
【カリキュラム】
・一年生:基礎教育
・二年生:専門教育
・三年生:艦内実務研修
「見ての通り、三年生になると座学を中心とした通常授業はすべて終了する」
ハンク艦長は一同を見渡しながら、厳かに言葉を継いだ。
「これより一年間、諸君にはコスモ・アカデミア号の各部署へ正式に配属され、現場での実務研修に励んでもらう」
スクリーンが切り替わり、具体的な配属先がリストアップされていく。
【指揮・操舵部門】セイヤ、エミリア、他
【保安・機関部門】リュウジ、ギル、他
【科学・医療部門】ポックス、クロ(定時後、居酒屋KURO)、ミリィ、ヴァル、他
【情報部門】カズマ、他
自分の名を探す生徒たちの視線が画面に釘付けになる中、ハンク艦長は言葉を重ねた。
「この一年間の研修を無事に修了した時、諸君は晴れて卒業となる」
さらに画面が切り替わり、卒業後の多様な選択肢が示された。
【卒業後の進路】
・コスモ艦隊勤務
・研究機関への所属
・民間企業への就職
・起業
・独立
・その他、自由進路
「卒業後は、それぞれの進路を自らの意思で選択してもらう。
そのままコスモ艦隊へ残る者、民間企業へ就職する者、研究者を目指す者、
あるいは自ら会社を立ち上げる者……。その選択は、すべて諸君自身に委ねられている」
会場がにわかにざわめき始める。
「学生生活も、あと一年か……」
リュウジが感慨深げに呟いた直後、スクリーンの表記に気づいて声を裏返した。
「ってクロ! お前、定時後は『居酒屋KURO』になってるぞ!」
驚愕するリュウジを余所に、クロは淡々とした口調で応じる。
「はい。私もそのつもりです」
「でも、それじゃ休む間がないじゃない」
ミリィが心配そうに眉を寄せると、今度はポックスが冷静に割って入った。
「心配いりません。フロスト鉱石から精製された新素材により、クロの演算コアは冷却効率が劇的に向上し、処理能力が二十二・八パーセントアップしました。さらに急速充電時の発熱抑制にも成功したため、『クロの巣』でのチャージ時間は大幅に短縮されています」
「それでいいのかよ……」
呆れるリュウジに、クロは無機質な瞳を向けた。
「問題ありません。フロストガルドは私の故郷ですから」
「おい、なんか変なプログラム刷り込まれてねぇか?
その冷却装置、一度取り外した方がいいんじゃねぇのか」
リュウジの懸念を、ポックスが即座に否定する。
「これも処理能力の向上による成果です。彼は今、高度な比喩表現を学習している最中なのですよ」
「ほんとかよ!」
リュウジの叫びが、厳かな講堂の空気を一気に賑やかなものへと変えた。
そんな喧騒の中、エミリアは隣に立つセイヤの横顔を静かに見つめる。
セイヤは真っ直ぐ前を見つめたままエミリアの手をそっと握り、決意を込めるように小さく頷いた。
「最後の一年だ。悔いのないように過ごそう」
その言葉に、生徒会執行部の面々は互いに顔を見合わせ、力強く頷き合った。
エミリアは心強い支えを感じたようにその手に自分の手を添え、セイヤの横顔に信頼の眼差しを向けた。
しかし、彼らにはこの一年の締めくくりとして、もう一つ大きな、そして大切な仕事が残されていた。 次代のリーダーたちを決める、生徒会総選挙である。
(第2章へ続く)


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