前回のあらすじ
ミニマス人の少年キラは、先人たちの膨大な経験を継承して生まれ、村の発展に貢献しながら愛する家族と短くも濃密な一生を過ごす。彼が新たな知恵を生み出し、その経験が次世代へと受け継がれていく循環こそが種の誇りだった。一人の男の生涯を通じ、個の経験が全体へ溶け込んでいくミニマス人の宿命を描いた物語。
登場人物紹介
■ セイヤ 風紀を愛する前生徒会長。今日も正論で突っ走る。
■ ポックス 冷静沈着な前副会長。論理を愛するバルタン星人。
■ クロ 感情を得ようとする推定10億歳のアンドロイド。
■ リュウジ 頼れる幼馴染。仲間思いの前生徒会メンバー。
■ ギル 岩石星人の前風紀委員。見た目は怖いが五つ子の父親。
■ カズマ 新聞部の特ダネ記者。艦内の噂話ならお任せ。
■ エミリア 前生徒会書記。優秀な参謀役でセイヤの彼女。ミリィの姉(双子)
■ ミリィ 明るく元気な医療部志望。リュウジの彼女。エミリアの妹(双子)
■ ヴァル 穏やかな流体生命体。優しさ溢れる癒やし担当。
■リーフ博士
植物研究の第一人。穏やかで自然を愛する科学者。ヴァルの担当教官
■ヘンリー・クロフォード主任科学士官
飄々とした天才科学者。クロの成長を温かく見守る恩師。
第1章「居酒屋KUROで」
二日間に及ぶシルバー・マーチ号の救助任務を終え、セイヤたちはようやく母艦コスモ・アカデミア号へと帰還した。
「久しぶりだな!」
居酒屋KUROの暖簾を勢いよくくぐるなり、セイヤは胸に手を当ててぴしりと敬礼する。
「おかえりー!」
暖簾をくぐるなり、弾けるような声の礫がセイヤを包み込んだ。視線を巡らせれば、そこには見慣れた顔ぶれが揃っている。クロ、エミリア、ミリィ、ヴァル、ギル、カズマ――。
わずか二日間の不在だったはずだが、その賑やかで温かな笑顔は、まるで数年ぶりの再会を祝うかのような熱を帯びていた。その輪の中心では、救助任務を共に戦い抜いたばかりのリュウジとポックスが、すでに馴染んだ様子で手を振り返している。
「おいおい、敬礼は店の外だけにしとけよ。堅苦しいのは抜きだ」
リュウジが肩をすくめ、軽妙な口調で突っ込みを入れる。
その言葉が合図だったかのように、店内はどっと弾けるような笑いに包まれた。セイヤは強張らせていた表情を緩め、ふっと柔らかな笑みを浮かべると、仲間たちが待つ席へと腰を下ろした。だが、その和やかな空気は一瞬にして霧散する。
「……で?」
エミリアが静かに腕を組み、氷のように冷ややかな視線をセイヤに突き刺した。
「ん……?」
「『ル・シエル』」
その店名が唇から零れた瞬間、セイヤはその事かと納得した。
追い打ちをかけるように、ミリィが花が咲くような――それでいて、獲物を逃さない狩人のような笑みを浮かべる。
「リュウジ!『STELLA BLAN(ステラ・ブラン)』」
さらに、いつもは穏やかなヴァルまでもが、優雅な微笑を湛えたまま逃げ場を塞ぐ一撃を放った。
「私たちを置いて、こっそり贅沢をしてきたそうですね。……ポックス?」
「…………」
論理の塊であるはずのポックスは、沈黙という名の防壁を築き、すっと視線を虚空へと逸らした。
ぐうの音も出ない、完璧な包囲網だった。
「い、いや!俺は悪くねぇぞ!セイヤが急に行こうって言い出したんだ。あれは完全に……そう、不可抗力ってやつだ!」
リュウジは顔を真っ赤に染め、弁明するように両手を激しく振る。だが、その必死の抵抗も虚しく、傍らから冷ややかな追撃が放たれた。
「ちなみに。言い逃れできない証拠写真もバッチリ押さえてありますよ」
カズマがニヤリと不敵な笑みを浮かべ、手慣れた手つきで端末の画面を提示する。そこに映し出されていたのは、高級店で相好を崩す彼らの姿だった。
「証拠まであるのかよ……!」
逃げ場を完全に断たれたリュウジは、がっくりと項垂れ、その大きな両手で顔を覆った。
エミリアは小さくため息をつき、呆れたように肩をすくめた。
「……で、お味はどうだったの?」
「ああ、最高だったよ。食べてる間、ずっとエミリアにも食べさせたいって思ってたんだ」
セイヤが真っ直ぐな瞳で答えると、エミリアは毒気を抜かれたように目を細めた。
「え、本当に……?」
頬をわずかに朱に染め、上目遣いにセイヤを見つめる。その仕草には、先ほどまでの鋭さは微塵も残っていなかった。その言葉を聞くや否や、セイヤは弾かれたように席から立ち上がった。
「よし、決まりだ。今度はみんなで行こう!俺が責任を持って案内する!」
あまりの勢いに、エミリア、ミリィ、ヴァルの三人は顔を見合わせ、やがてエミリアが観念したように小さく笑みをこぼした。
「……その約束、絶対に忘れないでね」
「もちろんだ、約束するよ!」
セイヤの迷いのない力強い返事に、エミリアは満足げに頷く。
「なら、今回は特別に許してあげる」
「ふぅ、助かった……!」
ようやく包囲網が解かれ、リュウジは深々と胸をなでおろした。
「はぁ……助かったぜ。マジで命拾いした気分だ」
その情けない様子を見て、ギルが岩のような逞しい肩を揺らして豪快に笑う。
「はっはっは!危なかったな、リュウジ。お前のあの焦りようは、なかなかの傑作だったぞ」
ようやく嵐が過ぎ去ったかのように場の空気が和らぐと、タイミングを見計らったかのように、注文していた料理や飲み物が次々と運ばれてきた。店内に立ち込める食欲をそそる香ばしい匂いと、ジョッキが触れ合う軽快な音。それが合図となり、賑やかな宴の幕が上がる。
セイヤは手元のジョッキを一度煽ると、改めて卓を囲む仲間たちの顔を一人ずつ見渡した。
「ところで――」
彼はジョッキをテーブルに置き、わずかに声を潜めて切り出した。
「俺たちが救助任務で艦を離れている間、何か変わったことはなかったか?」
その問いに、隣に座るエミリアが静かに頷いて応えた。
「ええ。実はね……あなたたちが留守にしている間に、クロがとても興味深いものを発見したのよ」
彼女の言葉が呼び水となり、それまで賑やかだった店内の視線が、吸い寄せられるように一斉にクロへと集まった。
第2章に続く


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