
前回のあらすじ
新人三人と教官たちは救助シャトル「COSMORESCUE-03」で初任務へ出撃する。緊張するセイヤたちに対し、レオンら教官は自身の失敗談を交えて激励し、チームの絆を深める。現場に到着すると、熱暴走で蒸気を噴き上げ変色した貨物船シルバー・マーチ号が姿を現す。若き候補生たちは決意を胸に、救助活動を開始する。
登場人物紹介
■ セイヤ 風紀を愛する前生徒会長。今日も正論で突っ走る。
■ ポックス 冷静沈着な前副会長。論理を愛するバルタン星人。
■ クロ 感情を得ようとする推定10億歳のアンドロイド。
■ リュウジ 頼れる幼馴染。仲間思いの前生徒会メンバー。
■ ギル 岩石星人の前風紀委員。見た目は怖いが五つ子の父親。
■ カズマ 新聞部の特ダネ記者。艦内の噂話ならお任せ。
■ エミリア 前生徒会書記。優秀な参謀役でセイヤの彼女。ミリィの姉(双子)
■ ミリィ 明るく元気な医療部志望。リュウジの彼女。エミリアの妹(双子)
■ ヴァル 穏やかな流体生命体。優しさ溢れる癒やし担当。
■ミドリ セイヤの母。医療部勤務の優しく包容力あふれる看護師。
■カナ セイヤの妹。明るく優しい兄思いのしっかり者。
■ハナエ リュウジの母。医療部勤務の明るく頼れるムードメーカー。
登場人物紹介(新キャラ)
■レオン・アークライト少尉(セイヤ担当教官)
冷静沈着な操舵士。新人を温かく導く頼れる教官。
■バルド・グレイン曹長(リュウジ担当教官)
豪快な機関部の鬼教官。情に厚い頼れるベテラン。
■アイリス・フェルナ少尉(ポックス担当教官)
穏やかな科学士官。知性と優しさで後輩を導く研究者。
■オリビエ
貨物船船長。営業上手で人望厚い陽気なベテラン。
■マリーネ
アクアリア星人。船を一人で支える冷静沈着な女性整備士。
■フロスト鉱石
惑星フロストガルドに眠る超希少鉱石。極低温エネルギーを蓄積・制御する特性を持ち、宇宙船機関や兵器、医療機器など幅広い分野で使用される。
■Le Ciel(ル・シエル)
銀河最高級アイスクリーム専門店。「空よりも軽く、星よりも美しい一口を。」
今月の新商品
『STELLA BLANC(ステラ・ブラン)』
濃厚なミルクの甘みが口いっぱいに広がり、胃に届く前に蒸発する特殊製法を採用したカロリーゼロのプレミアムアイス。発売前から予約が殺到する話題の逸品。
第3話「STELLA BLANC」
シルバー・マーチ号との距離がおよそ一キロまで縮まった頃、レオン少尉が静かに口を開いた。
「通信を開け」
「了解」
セイヤがコンソールを鮮やかな手つきで操作すると、正面モニターに通信回線接続を示すインジケーターが浮かび上がった。
『こちら救助シャトル、コスモレスキュー03。シルバー・マーチ号、応答願います』
数秒の静寂の後、メインモニターに一人の男が映し出された。乱れた制服に、無精ひげ。どこか気の抜けたような笑みを浮かべているが、その瞳の奥には長年宇宙の荒波を渡り歩いてきた者特有の、鋭い光が宿っていた。
「おお!来てくれたか!私はシルバー・マーチ号船長のオリビエだ。助かったよ!」
男が声を弾ませた直後、その背後から鋭い怒鳴り声が飛んできた。
「船長っ!喋ってる暇があったら、早く冷却材を持ってきてください!」
「ハイハイ、あとで行くから……」
「今すぐよ!!」
あまりに切迫した、それでいてどこか噛み合わないやり取りに、レオンたちは思わず顔を見合わせた。リュウジがこらえきれずに小さく笑う。
「……何か、思っていたより賑やかな船ですね」
オリビエは苦笑いを浮かべた。
「ごめんごめん。うちのマリーネは真面目なもんでね。私は営業専門で、船のことは全部あの子に任せきりなんだ」
そこへ、またしても鋭い怒鳴り声が割り込んだ。
「船長ーー!!冷却ポンプ止まりますーー!!」
「ハイハイ、今行く!」
「ハイは一回!!」
漫才のようなやり取りに、アイリスが思わず吹き出した。
「仲が良いんですね」
「腐れ縁さ」
オリビエは照れ臭そうに笑った。
「十五年一緒に飛んでる。喧嘩もするけどね」
レオンは笑顔を消し、本題へ入った。
「現在の状況を報告してください」
オリビエの表情も引き締まる。
「艦内温度、四十五度。機関部はさらに高い。マリーネがコアに張り付いて必死に冷やしてるが、もう限界だ。あと二時間も持たないと思う」
その言葉に、コックピットの空気が一変した。ポックスが素早く手元のコンソールを叩き、熱源データを確認する。
「……熱源反応、さらに上昇。冷却能力が限界へ近づいています」
レオンは静かに頷いた。
「乗船許可をお願いします」
「もちろん」
オリビエは迷わず答えた。
「助けてくれるなら大歓迎だ!」
「それでは、六名転送します」
「了解。ブリッジの座標を送る」
オリビエが急いでコンソールを叩く。
レオンは隣のセイヤを振り返った。
「シャトルは?」
「自動追従モードへ移行できます」
「よし、自動追従へ切り替えろ」
「了解」
セイヤが鮮やかな手つきで操作を行う。
『オートパイロット起動。シルバー・マーチ号へ追従開始』
システム音声が響き、シャトルは一定の距離を保ちながら、巨大な貨物船の後方へとぴたりと付き従った。
「転送準備」
レオンの号令に従い、六人は転送サークルへと整列した。足元から湧き上がった青白い光が、瞬く間に彼らの全身を包み込む。
「転送開始」
次の瞬間、視界が真っ白に染まった。感覚が消失し、再び戻ってきたときには、彼らは貨物船のブリッジへと降り立っていた。同時に、むせ返るような熱風が身体を包む。
「暑っ……!」
リュウジが顔をしかめ、思わず制服の襟元を緩めた。壁面の室内温度計は、四十五・二度という異常な数値を表示している。転送室の入口では、オリビエが柔和な笑みを浮かべて待ち構えていた。
「ようこそ、シルバー・マーチ号へ」
レオンは一歩前へ踏み出し、居住まいを正した。
「コスモ・アカデミア号救助班です。これより救助活動を開始します」
オリビエは深く頭を下げた。
「よろしく頼みます」
レオンは背後の仲間たちを振り返る。
「各班、行動開始。リュウジ、バルド曹長は機関コアを確認」
「了解!」
二人は即座に応じ、機関室へと駆け出した。
「ポックス、アイリス少尉は計器類を解析」
「了解しました」
二人は頷き、手近なコンソールへと向かった。
「セイヤ、君は私と共にオリビエ船長から詳細な状況を聞いてくれ」
「了解しました」
▲
レオンはオリビエに向き直り、一礼してから本題を切り出した。
「確認ですが、積み荷の内容は何ですか?」
問いかけられたオリビエは、一瞬だけ困惑したように眉を寄せた。
「いや、それが……契約上、本当は秘密なんだが……」
言い淀む船長に対し、セイヤが静かに敬礼を捧げる。
「救助活動を円滑に進めるために必要な情報です。開示をお願いします」
「……そうだね。背に腹は代えられないか」
オリビエは諦めたように息を吐くと、手元のコンソールを操作して貨物リストをメインモニターに表示させた。そこに映った商品名を見て、セイヤが目を丸くする。
「……アイス?」
「積み荷は『Le Ciel』の新商品なんだ。銀河中に店舗を持つ高級アイス専門店さ。商品名は『STELLA BLANC(ステラ・ブラン)』。発売日は今日の二十一時。この時間に各店舗へ届かなきゃ、発売イベントそのものが中止になっちまう」
画面には大きく、『 STELLA BLANC 』というロゴが表示されていた。オリビエは、先ほどまでの困惑が嘘のように、少し誇らしげな表情で説明を始めた。
「今日発売の新商品なんだ。一口食べれば濃厚なミルクの甘みが口いっぱいに広がる。それでいて、胃に届く前に完全蒸発する仕組みになっていてね」
「つまり……」
セイヤが至極真面目な顔で、その先を継いだ。
「食べても太らない、ということか!?」
「その通り!」
オリビエは満面の笑みを浮かべた。
「ダイエット中でも罪悪感ゼロ!テイクアウト不可、店舗でしか食べられない。そら持って帰ったら蒸発しちまうからな(笑) 銀河中の女性が予約している超人気商品さ」
セイヤも深く納得したように頷く。
「それは一度食べてみたいものですね」
しかし次の瞬間、オリビエの顔から笑顔が消えた。
「だが、問題はそこなんだ。冷凍倉庫の温度もどんどん上がっている。このままじゃ、荷物が全部蒸発してしまう」
モニターが切り替わり、大量のアイスが整然と並ぶ冷凍貨物室が映し出された。温度表示は不吉な赤色で点滅している。マイナス十八度だったはずの表示は、すでにマイナス二度まで上昇していた。
「アイスが蒸発すれば、メーカーからの違約金に加えて、発売を心待ちにしているファンを裏切ることになる。莫大な損害賠償だって免れない。それだけは、それだけは勘弁してほしいんだ!何としても二十一時には目的地に届けなきゃならんのだよ!」
必死に訴えるオリビエの声が響き、ブリッジに沈黙が流れた。レオンは短く答えた。
「事情は理解しました。貨物も乗組員も、すべて我々が守ります」
その力強い言葉に、オリビエは救われたような表情を見せ、深々と頭を下げた。レオンはすぐさま、コンソールで解析を続けている二人へ向き直る。
「アイリス、ポックス、そういうわけだ。冷凍倉庫の温度上昇を食い止めることは可能か?」
「はい。フロスト鉱石を触媒に利用すれば、強制的に温度を下げることは可能です。ただし、あくまで一時的な時間稼ぎにすぎませんが」
ポックスが手元の数値を睨みながら答える。
「どのくらい稼げる?」
「四時間は氷点下を維持できます。ですが、それ以降は再び上昇に転じるでしょう」
「よし。バルド、リュウジ、聞いた通りだ。荷物はとびきり美味いアイスクリームだそうだ。二十一時の納期には現状では間に合わない。冷凍倉庫の温度上昇はフロスト鉱石で食い止めるが、それも四時間が限界だ。納期に間に合わせるためには、二時間以内にコアのオーバーヒートを解消し、通常航行へ復帰させる必要がある。タイムリミットは二時間だ」
通信機越しに、レオンが厳しい声を飛ばす。
「対応可能か?」
通信機越しに、バルドの野太い声が返ってきた。
「まだ原因は掴めていません」
バルドは静かに腕を組み、目の前の巨大な機関を見据える。
「だが、原因さえ分かれば直せる可能性は十分にあります。まずは現物を見せてもらいましょう」
レオンは力強く頷いた。
「よし、頼んだぞ」
「了解!」
バルドとリュウジは同時に短く応じると、機関室の奥で必死に作業を続けるマリーネのもとへと急いだ。
「マリーネさんですね。コスモ・アカデミアのバルドだ。状況を共有してくれ」
「助かるわ……! 今は第五冷却ラインが――」
三人は即座に頭を突き合わせ、火花が散るような勢いで現状の打破に向けた打ち合わせを開始した。
こうして、若き士官候補生たちの初任務は本格的に幕を開けた。だが彼らはまだ知らない。機関室で、ただならぬ事態が待ち受けていることを。
(第4話へ続く)


コメント