第1章「アルバイト募集」
放課後の生徒会室。クロは静かにアナライザー・パッドを見つめていた。
「感情とは、実体験によって形成される可能性があります」
リュウジが椅子にもたれながら言う。
「また急に難しい事言い出したな」
クロは続けた。
「そのため、私は社会経験を積む必要があります」
セイヤが腕を組む。
「つまり?」
「アルバイトします」
ミリィが笑いながら言う。
「いいじゃん!」
エミリアは少し心配そうに聞く。
「どんなアルバイトをする気なの?」
クロは答える。
「接客業は感情交流頻度が高いと考えられます」
ポックスが静かに頷く。
「間違ってはいません」
リュウジも頷く
「まあ良いんじゃね」
クロはアナライザー・パッドへ候補を表示する。
「候補は以下です」
【書店】【コンビニ】【整備工場】【飲食店】
ミリィがニヤニヤする。
「クロが接客とか絶対面白いじゃん」
リュウジがふざける。
「コンビニで“温めますか”を真顔で言うクロ見てぇな」
「業務ですので適切に実施します」
エミリアは少し考える。
「でも飲食店はいいかもね」
「私たちも行きやすいし(笑)」
リュウジが続く。
「俺らのたまり場になったりして」
クロ停止。
「……なるほど」
セイヤも真顔で頷いた。
「食事空間の秩序維持は重要だ」
リュウジ。
「お前はもう全部風紀に繋げるな」
その時だった。ミリィが急に身を乗り出す。
「そうだ!商業ブロックの“銀河飯店”とかどう?」
ポックスが少し反応する。
「街中華ですか」
ミリィは頷く。
「安いし美味しいし、おじさん一人でやってるお店!」
リュウジも思い出したように言う。
「あー、あそこか」
「最近めちゃくちゃ待たされるんだよな」
エミリア。「おじさん一人じゃ時間帯によっては大変だものね」
クロは即座に検索を始める。
【銀河飯店】
・営業年数:32年
・店主:ダン・ゴウザン
・現在人手不足傾向
クロ。「条件適合率が高いです」
リュウジが笑う。
「行く気満々だな」
数十分後。
商業ブロック路地。
赤い暖簾がかかった古い店の前に、クロ達は立っていた。
暖簾には少し掠れた文字で『銀河飯店』と書かれている。
中からは中華鍋を振る音が聞こえてきた。
カンカンカン!!
クロは静かに扉を開ける。
「失礼します」
店内には数人の常連客いる。そしてカウンター奥では、小太りの男が鍋を振っていた。
無精ヒゲ。首にはタオル。いかにも職人という雰囲気である。
男は鍋を振りながら視線だけ向けた。
「……ん?」
クロは礼儀正しく頭を下げる。
「アルバイトを希望します」
店主――ダン・ゴウザンはクロをじっと見た。
「学生?」
「はい」
「飲食経験は?」
「ありません」
「接客経験は?」
「ありません」
「料理は?」
「理論上可能です」
リュウジがフォローする。
「大丈夫です。こいつ意外としっかりしてるんで」
ダンさんは深いため息を吐いた。
「……なんか不安だなぁ」
だが次の瞬間、店内から声が飛ぶ。
「ダンさーん!注文まだー!」
「餃子追加ー!」
ダンさんは肩を落とした。
「……まぁ人手足りねぇしな」
クロは静かに姿勢を正す。ダンさん。
「皿割るなよ?」
「努力します」
リュウジ。
「よかったな、クロ。これで俺らもちょくちょく来れる(笑)」
ミリィはも笑っている。
「ここのチャーハンおいしいもんね!」
クロは真顔のまま暖簾を見上げた。
『銀河飯店』
静かに頷く。
「よろしくお願いします」
ダンさんは鍋を振りながら小さく呟いた。
「……ほんとに大丈夫かなぁ」
その不安は、後に現実となる。しかも想像と違った方向で。


コメント