登場人物紹介
■ セイヤ 風紀を愛する前生徒会長。今日も正論で突っ走る。
■ ポックス 冷静沈着な前副会長。論理を愛するバルタン星人。
■ クロ 感情を得ようとする推定10億歳のアンドロイド。
■ リュウジ 頼れる幼馴染。仲間思いの前生徒会メンバー。
■ ギル 岩石星人の前風紀委員。見た目は怖いが五つ子の父親。
■ カズマ 新聞部の特ダネ記者。艦内の噂話ならお任せ。
■ エミリア 前生徒会書記。優秀な参謀役でセイヤの彼女。ミリィの姉(双子)
■ ミリィ 明るく元気な医療部志望。リュウジの彼女。エミリアの妹(双子)
■ ヴァル 穏やかな流体生命体。優しさ溢れる癒やし担当。
■リーフ博士 植物研究の第一人。穏やかで自然を愛する科学者。ヴァルの担当教官
■ヘンリー・クロフォード主任科学士官 飄々とした天才科学者。クロの成長を温かく見守る恩師。
クロが見つけた小さな世界
二日間に及ぶシルバー・マーチ号の救助任務を終え、セイヤたちはようやく母艦コスモ・アカデミア号へと帰還した。
「久しぶりだな!」
居酒屋《KURO》の暖簾を勢いよくくぐるなり、セイヤは胸に手を当ててぴしりと敬礼する。
「おかえりー!」
店内から一斉に明るい声が飛んだ。クロ、エミリア、ミリィ、ヴァル、ギル、カズマ――わずか二日ぶりの再会とは思えないほど、賑やかで温かな笑顔が彼らを迎える。その輪の中心では、救助任務を共に戦い抜いたリュウジとポックスも、親しげに手を振り返していた。
「おいおい、敬礼は店の外だけにしとけよ。堅苦しいのは抜きだ」
リュウジの軽妙な突っ込みに、店内はどっと温かな笑いに包まれる。セイヤも照れくさそうに口角を上げ、仲間たちの待つ席へと腰を下ろした。しかし、その和やかな空気は長くは続かなかった。
「……で?」
エミリアが静かに腕を組み、冷ややかな視線を向ける。
「え?」
「ル・シエル」その店名が出た瞬間、セイヤは納得した。
続いて、ミリィが花が咲くような、それでいて逃げ場のない笑みを浮かべる。
「《STELLABLANC(ステラ・ブラン)》」
さらに、いつもは穏やかなヴァルまでもが、優雅な微笑を湛えたまま追撃の一撃を放った。
「私たちを置いて、こっそり食べてきたそうですね。ポックス?」
「…………」
ポックスは沈黙し、すっと視線を逸らした。ぐうの音も出ない、完璧な包囲網だった。
「いや!俺は悪くねぇぞ!セイヤが急に行こうっていうから、流れ!あれは完全に流れだ!」
リュウジは顔を真っ赤にして、慌てて両手を振る。そこへ、カズマが追い打ちをかけるように端末を取り出した。
「ちなみに、証拠写真もありますよ」
「証拠まであるのか!」
逃げ場を失ったリュウジは、がっくりと頭を抱えた。エミリアは小さくため息をつき、呆れたように肩をすくめた。
「……で、お味はどうだったの?」
「ああ、最高だったよ。食べてる間、ずっとエミリアにも食べさせたいって思ってたんだ」
セイヤが真っ直ぐに答えると、エミリアは毒気を抜かれたように目を細める。
「ふふ、もう本当にそんな事思ったの!?」
その言葉を聞くや否や、セイヤは勢いよく席から立ち上がった。
「よし、今度はみんなで行こう!俺が案内する!」
エミリア、ミリィ、ヴァルの三人は顔を見合わせ、やがてエミリアが小さく笑みをこぼした。
「……その約束、絶対に忘れないでね」
「もちろんだ、約束するよ!」
セイヤの力強い返事に、エミリアは満足げに頷く。
「なら、今回は特別に許してあげる」
「ふぅ、助かった……!」
ようやく包囲網が解かれ、リュウジは深々と胸をなでおろした。
「はぁ……助かったぜ。命拾いした気分だ」
その様子を見て、ギルが岩のような肩を揺らして豪快に笑う。
「はっはっは!危なかったな、リュウジ。お前の焦りようは傑作だったぞ」
ようやく場の空気が和らぎ、注文していた料理や飲み物が次々と運ばれてくる。香ばしい匂いと賑やかな音が店内に満ち、宴の始まりを告げた。
セイヤは改めて仲間たちの顔を見渡した。
「ところで――」
ジョッキを置き、少しだけ声を落として尋ねる。
「俺たちが救助任務へ行っている間、何か変わったことはなかったか?」
その問いに、隣に座るエミリアが頷いて応えた。
「ええ。実はね……あなたたちが留守にしている間に、クロがとても興味深いものを発見したのよ」
その一言で、店内の視線が一斉にクロへと集まった。不意に名前を呼ばれたクロは、瞬きを一つして一同を見渡した。
「私ですか。……承知しました。では、お話ししましょう」
その落ち着いた声に、店内は自然と静まり返る。
クロは穏やかな口調で、記憶の記録を紐解くように語り始めた。
「二日前――皆さんがシルバー・マーチ号の救助任務へ出発された直後の出来事です。私は化学研究室で、通常どおり宇宙観測データの整理を行っていました」
その時でした。通常では考えられないほど微弱な、しかし確かな天体反応を検知したのです。最初は、浮遊する小惑星か、あるいは何らかの人工衛星の類だと思いました。
ですが、解析を進めるうちに奇妙な点が見つかりました。質量、重力、そして反射スペクトル……そのいずれもが、既存のどの天体データとも一致しなかったのです。
私はすぐに、直属の上官であるヘンリー・クロフォード主任科学士官へ報告を行いました。
「主任、このデータをご覧いただけますか」
私がそう告げて端末を差し出すと、ヘンリー主任はそれを受け取り、いつもの飄々とした笑みを浮かべながら画面を眺めました。
「ほう……これは面白い」
主任は興味深そうに目を細め、すぐに私へ指示を出しました。
「クロ、もう少し詳しく調べてみよう。興味深い反応だ」
私たちは直ちに、高精度スキャンを開始しました。そして、解析結果がモニターに映し出された瞬間、私と主任は二人して言葉を失いました。それは単なる小惑星などではありませんでした。紛れもなく、一つの『惑星』だったのです。
「直径、およそ五キロメートル」
「推定人口、約三千人」
「平均身長、およそ十センチメートル」
クロが淡々と告げる数値に、居酒屋にいた全員が思わず息を呑んだ。クロは静かに言葉を継ぐ。
「さらに、その極小の地表で知的生命体が文明を築いていることも判明しました。主任はすぐに、生態系の調査のためにリーフ博士へ連絡を取りました」
『植物を含めた生態系も確認したい。リーフ博士を呼ぼう』
ヘンリー主任の呼びかけに応じ、ほどなくしてリーフ博士とヴァルが研究室へ到着しました。
『クロ、何を見つけたの?』
ヴァルはモニターに映し出された映像を覗き込み、驚いたように小さく目を丸くしました。
『……かわいい』
その隣で、リーフ博士も穏やかに微笑んでいました。
『本当に小さな、箱庭のような惑星ですね』
「当時の文明レベルは極めて低く、火を使い始めたばかりの狩猟生活でした。」
「確認できた知的種族は三種類。」
私たちは四人で詳細な解析を進めました。
そして、この未知の惑星を正式に『ミニマス星』と命名したのです。
そこに住む知的生命体は『ミニマス人』。この名称で、正式に観測記録へと登録されました。
クロはそう言って、テーブルの上にホログラム映像を投影した。
そこには、瑞々しい緑を湛えた小さな森、銀糸のように流れる小さな川、そして豆粒ほどの家々が肩を寄せ合うように並ぶ集落が映し出されていた。クロはホログラムの細部を指し示しながら説明を続けた。
「確認されたのは、人型ヒューマノイド、爬虫類型ヒューマノイド、そして人型ではありますが眉間が大きく発達した屈強な種族の三種です。これら三種族は、それぞれ惑星内の異なる地域で生活を営んでおり、この時点では互いの存在を認識すらしていませんでした」
セイヤが思わず身を乗り出した。
「直径五キロの小さな惑星なんだろう?なのに、お互いを知らないなんてことがあるのか」
「はい。彼らにとっては、その狭い範囲こそが世界のすべてなのです」
クロは淡々と頷き、ホログラムの地形を指し示した。
「地表には険しい山脈や深い海が存在し、それらが天然の障壁となっていました。三種族はそれぞれ隔絶された環境で、独自の文化を育んでいたのです」
クロは一度言葉を切り、集まった面々をゆっくりと見回した。
「私たちは、この稀有な生態系を長期的に観測する計画を立てました。……ですが、観測開始からわずか十分ほどが経過した頃、奇妙な現象に気付いたのです」」
店内が水を打ったように静まり返る。
「先ほどまで元気に生活していた人々が、一人残らず姿を消していたのです」
クロの淡々とした声が、かえって不気味に響いた。
「最初は観測機器の異常を疑いました。しかし、事実は違いました。……彼らは、寿命を迎えていたのです」
誰も口を開かない。セイヤたちは、突きつけられた異様な事実に圧倒されていた。
「ミニマス人の平均寿命は、およそ十分。一時間も観察を続ければ、およそ六世代もの人々が入れ替わります」
クロは静かに首を振った。
「時間の流れが違うわけではありません。彼らの生命のサイクルそのものが、極端に短いのです」
クロはゆっくりと、手元のホログラムを見つめた。
「その時、私は理解しました。私たちは今、文明の歴史そのものをリアルタイムで見届けることのできる世界を発見してしまったのだと」
店内には、誰一人として言葉を発する者はいなかった。
ミニマス星――そのあまりに小さく、あまりに儚い惑星が、やがて彼らの想像を遥かに超える文明へと変貌を遂げていくことを、この時の彼らはまだ知る由もなかった。
【初任務編 完】


コメント