登場人物紹介
■ セイヤ 風紀を愛する前生徒会長。今日も正論で突っ走る。
■ ポックス 冷静沈着な前副会長。論理を愛するバルタン星人。
■ クロ 感情を得ようとする推定10億歳のアンドロイド。
■ リュウジ 頼れる幼馴染。仲間思いの前生徒会メンバー。
■ エミリア 前生徒会書記。優秀な参謀役でセイヤの彼女。ミリィの姉(双子)
■ ミリィ 明るく元気な医療部志望。リュウジの彼女。エミリアの妹(双子)
■ ヴァル 穏やかな流体生命体。優しさ溢れる癒やし担当。
■ ギル 岩石星人の前風紀委員。見た目は怖いが五つ子の父親。
■ カズマ 新聞部の特ダネ記者。艦内の噂話ならお任せ。
■ハンク艦長 豪快で熱血、生徒の成長を見守る頼れる艦長。
■ポックル副長 ポックスの父。冷静沈着で判断力に優れた、艦長を支える頼れる副長。
■パッカル・ベルド
冷静な判断力と確かな操縦技術を持つ、バルタン・アカデミーの実力派ドライバー。ポックスの知人。
■ポッケル・ラグナ
冷静な分析力と戦略眼を持つ、バルタン・アカデミーの学生監督。ポックスの知人。
第2章 スターウェイ・ラリー
「スターウェイ・ラリー選手権に出場してもらう!」
ハンク艦長の言葉が、第一会議室の空気を一変させた。
「ええっ!?」
セイヤたちの声が見事なまでに重なる。その中で、ただ一人。
「…………」
ポックスだけが無言だった。つい数分前まで、自分はそのスターウェイ・ラリーへの参加を誘われていたのである。しかも、断ったばかりだ。
ポックスは腕を組み、なんとも言えない表情で正面を見つめた。
「……そういうことでしたか」
「ん?」
隣に座るセイヤが振り向いた。
「ポックス、何か知っているのか?」
「いえ。少々、個人的な事情がありまして」
「個人的な事情?」
「それについては後ほど」
「?」
セイヤが首を傾げる。ハンク艦長はそんな二人の様子を横目で見ながら、口元を緩めた。
「どうした。お前たち、ずいぶん驚いてるじゃないか」
「驚くに決まってるだろ!」
リュウジが身を乗り出した。
「スターウェイって、あのスターウェイだろ!?」
「ほかに何がある」
「銀河中で中継される、あのレースですよね?」
カズマの目が、すでに記者のそれへ変わっている。
「二年に一度の?」
「ああ」「銀河最大級のスポーツイベントの?」
「そうだ」
「マジか……」
カズマは震える手で端末を取り出した。
「これは記事になる……!」
「まだ出場が決まっただけだぞ」
ギルが横から冷静に突っ込む。
「十分大ニュースだよ!」
一方、セイヤは腕を組みながら難しい表情を浮かべていた。
「スターウェイ・ラリー……」
「知らないの?」
エミリアが尋ねる。
「名前はもちろん知っている」
セイヤは胸を張った。
「銀河を代表する由緒ある競技であることも!」
「じゃあ、何を考えているの?」
「そんなレースに出られるなんて……」
「お前ゆっくりすぎて渋滞巻き起こすんじゃねぇか」
「…………」
リュウジの一言で、セイヤの動きが止まった。
「もちろん、安全第一だが」
「レースだっていってんだろ!!!」
小さな笑いが会議室に広がる。
「まあ待て」
ポックル副長が一歩前へ出た。
「今日集まってもらったのは、ただ出場を伝えるためだけではない」
その言葉に、一同の表情が引き締まった。
「スターウェイ・ラリーについて、諸君の中にも知識の差があるだろう。まずは大会そのものを正しく理解してもらう」
ポックル副長が壁面モニターへ視線を送る。
「その説明を担当する二人を呼んでいる」
会議室の扉が開いた。姿を現したのは、レオン・アークライト少尉とユリア中尉だった。
「レオン教官!」
セイヤが思わず声を上げる。その隣では、エミリアもユリアの姿を見てわずかに目を見開いていた。
「二人には今回のスターウェイ参加における諸君の指導を担当してもらう」
ポックル副長の言葉を受け、レオンが一同を見渡した。
「久しぶりだな、セイヤ」
「はい!」
セイヤが勢いよく返事をする。
「今回はずいぶん変わった訓練になりそうだ」
「望むところです!」
「まだ内容も聞いてないだろ」
リュウジの突っ込みが飛ぶ。ユリアはそんなやり取りを横目に、エミリアへ視線を向けた。
「エミリアも元気そうね」
「はい、ユリア教官」
「今回は星図を追う旅とは、だいぶ勝手が違うわよ」
「そのようですね」
エミリアはわずかに微笑んだ。ユリアが端末を操作すると、会議室の照明が少し落とされた。正面の大型モニターに、星々を背景とした一本の銀色のラインが浮かび上がった。その中央に、大きな文字が現れる。STARWAYRALLY。
「まずは基本から説明します」
ユリアが端末を操作した。
「スターウェイ・ラリー選手権は、二年に一度開催される長距離宇宙レースです。起源はおよそ百二十年前」
画面が切り替わり、古い輸送船の映像が映し出される。
「当時、未開拓だった辺境星系へ物資を届けるため、輸送船乗りたちは危険な宙域を自力で航行していました」
小惑星帯。巨大惑星。恒星風。暗黒の星間空間。古い記録映像が次々と流れていく。
「航路も十分に整備されておらず、船の性能だけでなく、航法、エネルギー管理、修理能力、そして乗員自身の判断力が生死を分けました」
エミリアが静かに画面を見つめる。
「その輸送船乗りたちが、いつしか競うようになった」
レオンが後を引き継ぐ。
「誰が最も速く、そして確実に目的地へ到達できるのか。それが競技として発展したものが、現在のスターウェイ・ラリーだ」
「なるほど……」
セイヤが頷いた。
「だから単純な速度競争ではないんですね」
「その通り」
レオンがセイヤを見る。
「スターウェイで最も重要なのは、速さだけじゃない」
モニターに一つの言葉が表示された。完走。
「最後まで走り切ることだ」
リュウジが腕を組んだ。
「耐久レースってことか」
「それも普通の耐久レースとは少し違う」
ユリアが表示を切り替える。
「大会期間は、およそ三週間」
「三週間!?」
ミリィが目を輝かせた。
「そんなに走れるの!?」
「……ちょっとミリィ、喜びすぎよ」
エミリアが妹を見る。
「だって宇宙レースでしょ?三週間も走れるなんて最高じゃない!」
「遊びじゃないのよ」
「分かってるって!」
ミリィはすでに完全にその気だった。ユリアが少し笑って説明を続ける。
「全十三ステージです」
「十三ステージ!」
ミリィのテンションがさらに上がる。ヴァルがのんびりと指を折り始めた。
「一日一個くらい?」
「連日走るステージもあれば、整備日を挟む場合もあります。長いステージでは、一回の走行が一日を超えることもあります」
「寝る時間は?」
ミリィが尋ねた。
「自分たちで作ります」
「走りながら?」
「そうです」
「面白そう!」
「はいはい…」
エミリアが思わず声を上げた。
「乗員同士で休息を取りながら走る必要があります。スターウェイでは体力管理も競技の一部です」
「なるほど」
エミリアが腕を組む。
「スピードだけでは三週間を戦い抜けないということですね」
「その通りです」
セイヤは真剣な表情で頷いた。
「三週間……。風紀委員会の定期巡回より長いですね」
「比較対象そこなの?」
エミリアが呆れる。レオンが咳払いした。
「そして、スターウェイには大きな特徴がある」
画面に一隻の競技艇が表示される。その周囲に複数の光点が現れた。
「各ステージには複数のチェックポイントが設定される」
START。CP1。CP2。CP3。GOAL。
「チェックポイントは指定された順番で必ず通過しなければならない」
セイヤが手を挙げる。
「質問です!」
「どうぞ」
「チェックポイントとチェックポイントの間には、決められた航路が存在するのでしょうか?」
「存在しない」
レオンが即答した。
「え?」
「どこを走るかは自由だ」
一同が少しざわめく。モニター上で、CP1からCP2へ複数のルートが伸びた。一つは大きく迂回する安全な航路。一つは小惑星帯を横切る短い航路。そしてもう一つは巨大惑星のすぐ近くを通過していた。
「最短距離を選ぶのも自由。安全な航路を選ぶのも自由。惑星の重力を利用して加速するのも、小惑星帯を突っ切るのも、それぞれのチームの判断だ」
エミリアの目が鋭くなる。
「つまり、ナビゲーターの判断が非常に大きい」
「その通り」
「面白そうですね」
「エミリア?」
セイヤが横を見る。エミリアはすでにモニターの航路図へ完全に意識を奪われていた。
「同じ性能の艇でも、航路選択次第で数時間単位の差がつく可能性がある……」
「もう始まってるぞ」
リュウジが笑った。レオンもわずかに口元を上げた。
「いい目だ。スターウェイではドライバーだけが主役じゃない。むしろナビゲーターの判断で勝負が決まる場面も多い」
ユリアが続ける。
「競技艇の乗員は二名」
画面に大きく二文字が表示された。D。N。
「Dはドライバー。操縦を担当します」
続いてNが光る。
「Nはナビゲーター。航路選択、位置確認、周辺宙域の解析、エネルギー管理などを担当します」
カズマが尋ねる。
「二人だけなんですか?」
「競技中、船内に乗れるのは二人だけです」
「整備士とかは?」
「ステージ間のパドックでは整備できます。しかし競技中、チームスタッフが直接修理することは原則禁止です」
リュウジの眉が動いた。
「ってことは、途中で壊れたら?」
「乗員二人で直す」
「うわあ……」
リュウジが苦笑した。
「それは整備士泣かせだな」
「ただし通信は許可されています」
ユリアが説明する。
「チームから航路情報や修理方法を送ることはできます。ただし、外部から競技艇を直接操縦したり、遠隔操作で修理したりすることは禁止されています」
クロが静かに手を挙げた。
「質問があります」
「どうぞ」
「私が競技艇のシステムへ直接接続し、操縦を補助することは可能でしょうか」
「禁止です」
「なりほど…」
「完全自律操縦に該当する可能性がありますから」
「承知しました」クロは少し残念そうに手を下ろした。
「クロなら寝る必要もないし、一人で全部やっちゃいそうだもんな」
カズマが笑う。
「可能です」
「可能ですじゃねえ!」
さらに画面が切り替わる。そこには巨大な文字が浮かんだ。WARP PROHIBITED。
「そして、スターウェイ最大の原則の一つ」
レオンが言った。
「ワープ航法は禁止だ」
「当然ですね」
ポックスが静かに頷く。
「ワープを使えば、そもそも長距離レースとして成立しません」
「そういうことだ」
通常空間を航行する競技艇の映像が表示される。
「すべて通常航行。自分たちのマシン、自分たちのエネルギー、自分たちの判断だけで走る」
リュウジが少し笑った。
「単純で分かりやすいな」
「だが、それが一番難しい」
レオンが答える。
「速度を上げればエネルギーを食う。機関に負荷もかかる。シールド出力も必要になる。無理に加速を続ければ、船体そのものが耐えられなくなる」
「競技艇なら……」
リュウジが考える。
「0.25c付近か」
「ああ」
レオンが頷いた。
「このクラスの競技艇では、そのあたりから機体への負荷が一気に厳しくなる。だが、0.25cという速度制限があるわけじゃない」
ポックスの瞳がわずかに輝いた。
「つまり、どこまで加速するかも戦略になる」
「その通り」
「機体の出力、耐久性、シールド性能、エネルギー残量、そして現在の船体状態。それらによって限界は常に変化する」
「おもしれえ」
リュウジがニヤリと笑った。
「エンジニア泣かせどころか、エンジニアの腕の見せ所じゃねえか」
「さっきと言ってること変わってるよ」
ミリィが笑った。
「それに」
ミリィはモニターに映る競技艇を見つめたまま、楽しそうに続ける。
「0.25cより先に行けるマシンもあるってことでしょ?」
「可能性はある」
レオンが答える。
「ただし、出せることと、出して無事でいられることは別問題だ」
「なるほどね」
ミリィがニッと笑う。
「燃えてきた!」
「だから燃やすなよ。特にエンジンを」
リュウジがすかさず釘を刺した。ユリアはその様子を見ながら、次の画面へ切り替えた。
「そしてもう一つ。スターウェイには、競技よりも優先される規則があります」
救難信号を発している競技艇が表示された。
「人命です」
会議室の空気が少し変わる。
「競技中に事故や遭難船を発見した場合、救助を最優先することが求められます」
セイヤの表情が引き締まった。
「当然です」
「救助活動に費やした時間は、運営委員会が記録を確認した上で競技時間から差し引きます」
「つまり」
セイヤが真っ直ぐ前を見る。
「順位を守るために、助けを求める者を見捨てる必要はない」
「そういうことだ」
レオンは短く答えた。
「スターウェイの始まりは物資輸送だった。速く着くことだけが目的じゃない。必ず辿り着く。そして必要なら、仲間も連れて帰る。その精神は今でも残っている」
セイヤは深く頷いた。
「素晴らしい競技だな!」
「そこだけ聞くとお前向きだな」
リュウジが笑う。
「そこだけとは何だ!」
再び会議室に笑いが起きた。ユリアが端末を閉じる。
「基本的な説明は以上です。細かな規則については、今後の訓練で順次説明します」
「なるほど……」
エミリアが小さく息を吐いた。
「想像していた以上に複雑な競技ね」
「はい」
ポックスが言った。その瞬間。セイヤがポックスを見る。
「そういえば!」
「ポックスはさっき、スターウェイについて何か個人的な事情があると言っていたが?」
「ああ」全員の視線が集まる。ポックスは数秒黙った。
「実はここへ来る直前、バルタン・アカデミーからスターウェイ・ラリーへの参加要請を受けていました」
「ええっ!?」
今日二度目の大合唱だった。
「マジかよ!」
「誰から?」
カズマが食いつく。
「ドライバーのパッカル・ベルドと、監督のポッケル・ラグナです」
「それで?」
ミリィが尋ねる。
「断りました」
「ええっ!?」
三度目だった。
「なんで!?」
「私はコスモ・アカデミアの生徒ですから」
「でもその時、俺たちが出場するって知らなかったんだろ?」
「知りませんでした」
「じゃあ完全に偶然かよ!」
「そうなりますね」
「ですが」
ポックスは小さく笑った。
「結果的には、正しい判断だったようです」
その言葉に、セイヤが嬉しそうに頷いた。
「当然だ!我々は仲間だから!」
「……そうですね」
ポックスの返事はいつも通り静かだった。だが、その声にはほんの少しだけ温かさがあった。
「さて」
それまで黙っていたポックル副長が口を開いた。
「ここからが本題だ」
一同の視線が再び正面へ向く。
「大会の概要は理解したと思う。次は、誰が何を担当するのかを発表する」
「役割……」
セイヤが姿勢を正した。ユリアが再び端末を操作する。大型モニターに文字が表示された。
COSMO A。
「まず、コスモAチーム」
全員が画面を見る。
「ドライバー…セイヤ・カミヤ」
「はいっ!」
セイヤが立ち上がる。
「着席してください」
「はい!」
すぐ座った。
「ナビゲーター」
次の名前が表示される。
「エミリア・トーネ」
「私?」
エミリアが少し驚いたように瞬きをする。
「セイヤとエミリアの二名が、コスモAの乗員です」
セイヤが横を見る。
「よろしく、エミリア!」
「ええ。頑張りましょう」
「安全第一で参ります!」
「それなら大丈夫そうね」
リュウジが鼻で笑った。
「レースで安全第一ってどうなんだよ」
「大切なエミリアを横に乗せるんだ、安全第一に決まってるだろ!」
「はいはい」
とリュウジ、その横でエミリアは赤面していた。ユリアが次の表示へ進める。
COSMOB。
「続いて、コスモBチーム」
その文字を見た瞬間、ミリィが身を乗り出した。
「来た!」
「何が来たのよ」エミリアが妹を見る。
「決まってるでしょ。ドライバーよ!」
「まだ発表されてないわよ」
「大丈夫。絶対、私だから」
妙な自信に満ちていた。ユリアが少し笑って発表する。
「ドライバー、ミリィ・トーネ」
「よっしゃあ!」
ミリィが拳を突き上げた。
「ほら!」
「まあ確かにミリィなら良いとこ行くんじゃない」
「そりゃそうよ、優勝よ!それ以外考えられないわ!燃えるに決まってるじゃない!」
リュウジが横から口を挟む。
「まあ、操縦だけならミリィは普通に上手いからな」
「だけならって何よ」
「反応速度も速いし、細かい操作も得意だろ。ただ……」
「ただ?」
「調子に乗る」
「乗らないわよ!」
「今もう乗ってるだろ」
「これはテンションが上がってるだけ!」
レオンが苦笑しながら二人を見る。
「実際、ミリィの操縦適性は高い。反応速度、空間把握能力、瞬間判断力。どれもドライバー向きだ」
「ですよね!」
本人は当然と言わんばかりに胸を張った。
「問題は、その能力を三週間最後まで使い切れるかどうかだ」
「任せてください!」
「……返事だけは満点だな」
「返事だけじゃありません!」
ユリアが続ける。
「そしてナビゲーターは、ヴァル」
「はーい」
ヴァルがのんびり手を上げた。
「よろしくー、ミリィ」
「よし、ヴァル!優勝するわよ!」
「うん、頑張ろう」
「軽いな、お前ら」
リュウジが呆れる。ミリィはすでにレースが始まったかのような勢いで拳を握った。
「セイヤ、負けないからね!」
「望むところだ!」
「ちょっと待って」
エミリアが二人の間に割って入る。
「同じコスモのチームでしょう?」
「それとこれとは別!」
「エミリア、我々も全力でむぞ!」
「あなたまで張り合わないの!」
早くもコスモAとコスモBの間に、妙な対抗意識が芽生え始めていた。ユリアが次の表示へ進める。TEAM MANAGER。
「そして両チームを統括する監督」
一拍置いて、名前が表示された。
「ポックス」
「…………」ポックスの動きが止まった。
「私が?」
「そうだ」
ポックル副長が答える。
「今回のコスモ代表チーム全体の戦略を任せる」
「なるほど……」
ポックスは顎に手を添え、しばらく考え込んだ。
「今日は随分とスターウェイに縁がありますね」
「運命なんじゃない?」
カズマが笑う。
「非科学的ですね」
「でも否定しきれてないぞ」
続いて、CHIEFMECHANIC。
「チーフメカニック」
「リュウジ」
「俺か」
リュウジは驚くというより、どこか嬉しそうだった。
「二艇とも?」
「二艇ともです」
「……忙しくなりそうだな」
だが、その口元にはすでに笑みが浮かんでいる。
「面白え。やってやるよ」
そして最後。SUPPORT。
「サポートメンバーとして、カズマ、クロ、ギル」
三人の名前が並ぶ。
「俺たちは乗らないのか」
カズマが少し残念そうに言った。
「大会中の情報収集、記録、物資管理など、仕事はいくらでもあります」
「情報収集?」
カズマの目が光る。
「他チームの取材も?」
「規則の範囲内なら」
「任せて!」
即答だった。
「私は?」
クロが尋ねる。
「クロにはチーム全体のデータ解析、それから長期戦における生活面の支援もお願いする予定です」
「生活面……」
クロは少し考えた。
「食事も含まれますか?」
「含まれます」
クロの瞳が光った。
「承知しました」
「なんか今、一番やる気出たぞ」
リュウジが呟いた。
「ギルには機材搬送、整備補助、パドック設営などを頼む」
「力仕事だな」
「主に」
「了解した」
ギルは力強く頷いた。モニターには、改めてコスモ代表チーム全員の名前が並んでいた。セイヤ。エミリア。ミリィ。ヴァル。ポックス。リュウジ。カズマ。クロ。ギル。いつもの仲間たち。だが今度は、生徒会でも惑星調査隊でもない。
一つのレーシングチームとして。セイヤは画面をじっと見上げていた。
「これが…俺たちのチーム」
「ああ」
ハンク艦長が腕を組む。
「ただし勘違いするなよ」
全員が振り向く。
「参加するだけなら簡単だ」
ハンクの顔から笑みが消えた。
「相手はプロだ。何年、何十年とスターウェイを走ってきた連中もいる。企業のワークスチームも、専門のレーサーも、各惑星の代表も出てくる」
室内の空気が引き締まる。
「お前たちは学生だ。経験じゃ圧倒的に負けている」
「…………」
「だからって、最初から負けるつもりで行く必要はない」
ハンクはニヤリと笑った。「出る以上は、勝ちに行け」セイヤの目が輝く。
「はい!」
今度は誰にも言われず立ち上がった。
「コスモ・アカデミア代表として、全力を尽くします!」
エミリアが微笑む。リュウジは拳を握る。ミリィは早くもレース本番を待ちきれない様子で目を輝かせている。ヴァルは相変わらず穏やかに笑っている。カズマはすでに何かを端末に入力している。ギルは静かに腕を組み、クロは表示されたチーム構成を熱心に見つめていた。そしてポックス。彼だけは、モニターの隅に表示された大会名を静かに見つめていた。STARWAYRALLY。
数十分前。自分はこの舞台への誘いを断った。だが今度は、仲間たちとともにそこへ向かうことになった。
「不思議なものですね……」
ポックスが小さく呟く。
「何が?」
セイヤが尋ねる。
「いえ」
ポックスは静かに目を細めた。
「こちらの話です」
そのとき、レオンが再び前へ出た。
「さて」
一同が彼を見る。
「チームが決まったところで、次の話に移ろう」
「まだ何かあるんですか?」
ミリィが聞く。
「ああ」
レオンはモニターを切り替えた。そこに二隻の競技艇のシルエットが浮かび上がる。
「諸君がスターウェイで乗る競技艇だ」
「おおっ!」
リュウジが身を乗り出す。ミリィも負けじと立ち上がりかけた。
「これに乗れるの!?」
「ああ。すでに大会規定に適合したベース艇が二隻用意されている」
レオンは一度言葉を切った。
「ただし、このままレースへ出すわけじゃない」
「ということは……」
リュウジの口元がゆっくり吊り上がる。レオンも笑った。
「ここから先は、お前たちのマシンだ」
「ドライバーとナビゲーターの特性に合わせて、好きに仕上げてもらう」
「もちろん」
ユリアが付け加える。
「レギュレーションの範囲内で、ですが」
「十分だ」
リュウジが勢いよく立ち上がった。
「最高じゃねえか!」
「リュウジ!」
ミリィがすかさず振り向いた。
「はいはい。嫌な予感しかしねえけど、何だ?」
「速くして!」
「まだ何も聞いてねえだろ!」
「すっごく速く!」
「だから待てって!」
「あと、すっごく曲がるようにして!」
「お前、耐久レースって話聞いてたか!?」
「聞いてた!」
「じゃあ少しは耐久性のことも考えろ!」
会議室に笑いが広がった。その横で、セイヤは腕を組み、二隻の競技艇を真剣に見つめていた。
「リュウジ」
「……今度はなんだよ」
「私たちの艇について、一つお願いがあります」
「おう」
リュウジは力強く頷いた。
「安全性を最優先でお願いします!」
「…………」
リュウジの顔から笑みが消えた。右を見れば、「速くして!」左を見れば、「安全第一です!」リュウジは天井を仰いだ。
「……なんで両極端なんだよ」
まだ名前すらない二隻の競技艇。一隻は、徹底して安全性を追求した堅実なマシンへ。もう一隻は、常識外れの加速と運動性能を追い求めた尖ったマシンへ。まるで正反対の二隻が、これから生まれようとしていた。
そしてその二隻が、やがて広大なヴェスタリア星系を舞台に、銀河最大級のレースを駆け抜けることになる。スターウェイ・ラリーへの挑戦は、まだ始まったばかりだった。
「あと、アーク・アカデミア号も出場するらしいぞ」
ハンク艦長が、去り際にさらりと言い放った。
「えっ!?」
全員の驚愕の声が、今日一番の音量で会議室に響き渡った。
第3章に続く

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