第2章「増殖する誤解」
翌朝コスモ・アカデミア号の中央通路では、セイヤはいつものように風紀巡回を行っていた。
アナライザー・パッドには今日の巡回ルートが表示されている。
「居住区画A異常なし」
「通路清掃状態良好」
「……む」
その時だった。
「セイヤ会長!」
女子生徒達が駆け寄ってくる。
セイヤは真顔で振り向いた。
「廊下は走るな」
女子達が一瞬止まる。そして。
「きゃー!」
なぜか盛り上がった。セイヤは困惑する。
「なぜ喜ぶ?」
女子の一人が笑いながら言う。
「会長ってちゃんと見てるんですね!」
セイヤは当然のように頷く。
「風紀を守る者として当然だ」
女子達、さらに盛り上がる。
「真面目!」
「なんか可愛い!」
その少し離れた場所では、巡回をサボって見学していたリュウジが腹を抱えていた。
「なんでそれで好感度上がるんだよ!!」
その横ではクロが静かにアナライザー・パッドを操作していた。
【周囲女子反応率上昇】
【対象:セイヤ=カミヤ】
【無自覚好感度上昇型】
ポックスが嫌そうな顔をする。
「その分析をやめなさい」
クロは真面目に言った。
「非常に興味深いです」
リュウジが吹き出す。
「完全に研究対象扱いじゃねぇか」
昼休みの食堂、セイヤがいつもの席へ座ると、なぜか近くの女子達がそわそわし始める。
ミリィが小声で笑った。
「ほんとに増えてる……」
エミリアは静かに水を飲んでいた。
「……気のせいよ」
リュウジがニヤニヤする。
「声低っ」
その時だった。女子生徒の一人が勇気を出してセイヤへ話しかける。
「あ、あのセイヤ会長!」
セイヤは顔を上げた。
「なんだ?」
女子は緊張している。
「す、好きなタイプとかあるんですか?」
リュウジが吹き出しかける。
ミリィが目を輝かせる。
ヴァルも静かに様子を見ていた。
そしてセイヤは、一切迷わず即答した。
「エミリアだ」
エミリア停止。女子達停止。
ミリィ、机へ突っ伏して爆笑。
「あはははははっ!!」
リュウジ、呼吸困難。
「お前会話に必殺技混ぜんな!!!!」
ヴァルも肩を震わせている。クロは真面目に記録していた。
【周囲好感度急上昇】
【高威力恋愛発言確認】
エミリアだけ真っ赤だった。
「なっ……!?」
セイヤは首を傾げる。
「質問されたから答えただけだが?」
リュウジが机を叩く。
「そこなんだよ!!」
その時だった。ポックスが静かに立ち上がる。
そして。またしても。スッ――。セイヤへ敬礼。
リュウジが叫ぶ。
「お前またやるの!?」
ポックスは真顔だった。
「見事です」
ヴァルが少し笑う。
「またやってる」
ポックスはわずかに視線を逸らす。
「……思った事を、迷わず言葉にするのは高度です」
クロが頷く。
「確かに」
「私にはまだ困難です」
エミリアは真っ赤なまま俯いている。
セイヤだけが本気で困惑していた。
「だから何の話なんだ?」
全員同時に「そこだよ!!」食堂中が笑いに包まれる。
その日の夕方。艦内掲示板はさらに加速していた。
【セイヤ会長に“エミリアだ”って即答された件】
【会長、恋愛だけストレートすぎる】
【エミリア先輩強すぎ】
【あれもう公開プロポーズでは?】
放課後の生徒会室、エミリアは無言で掲示板を見つめていた。
隣ではクロが静かに分析している。
「恋愛感情拡散速度、極めて高速です」
エミリアは真顔だった。
「……消す?」
クロが顔を上げる。
「恋愛感情の隠蔽ですか?」
エミリアは即答した。
「クロ、あなたごと消すわよ」
リュウジがクロに囁く。
「今のエミリアに悪い冗談はやめとけ」
ミリィ、爆笑。
「あははははっ!!」
ヴァルも肩を震わせている。
クロは真面目に記録していた。
【エミリア:情動反応増大確認】
エミリアが間髪入れずに言う。
「記録しない」
クロ、「はい」
リュウジが苦笑いしながら言う。
「返事いいな!」


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