宇宙前生徒会長セイヤ 第8話「セレスティア」

2.宇宙生徒会長セイヤ

前回のあらすじ
故障したシルバー・マーチ号の現状を受け、セレナ大佐は積み荷のアイス「ステラ・ブラン」の輸送代行を申し出る。ルミの不始末への責任を果たそうとする彼女の真摯な誠意を受け、レオンたちは母艦への招待を受諾。一行は人類初となる生体宇宙母艦セレスティアの神秘的な内部へと、ついに足を踏み入れることとなった。

登場人物紹介
■ セイヤ  風紀を愛する前生徒会長。今日も正論で突っ走る。
■ ポックス 冷静沈着な前副会長。論理を愛するバルタン星人。
■ リュウジ 頼れる幼馴染。仲間思いの前生徒会メンバー。

■レオン・アークライト少尉(セイヤ担当教官)
冷静沈着な操舵士。新人を温かく導く頼れる教官。
■バルド・グレイン曹長(リュウジ担当教官)
豪快な機関部の鬼教官。情に厚い頼れるベテラン。
■アイリス・フェルナ少尉(ポックス担当教官)
穏やかな科学士官。知性と優しさで後輩を導く研究者。
■オリビエ貨物船船長
営業上手で人望厚い陽気なベテラン。
■マリーネ
アクアリア星人。船を一人で支える冷静沈着な女性整備士。
■エリオ・ミレイス少尉
幼体生体宇宙船ルミの育成を担うリヴィア星航宙隊少尉。誠実で心優しく、生きた宇宙船を家族のように慈しむ。
■セレナ・アルシア大佐
リヴィア星航宙隊母艦《エターナル・ネスト》艦長。冷静沈着で部下や我が子を深く慈しむ女性指揮官。
■ルミ
リヴィア星で育つ生後八か月の幼体生体宇宙船。甘えん坊で好奇心旺盛、母艦を探して宇宙を泳ぐ。
■セレスティア
リヴィア星航宙隊所属、生体宇宙母艦。ルミの母艦であり、セレナ・アルシア大佐が指揮を執る個体。

その他用語紹介

フロスト鉱石
惑星フロストガルドに眠る超希少鉱石。極低温エネルギーを蓄積・制御する特性を持ち、宇宙船機関や兵器、医療機器など幅広い分野で使用される。

■Le Ciel(ル・シエル)
銀河最高級アイスクリーム専門店。「空よりも軽く、星よりも美しい一口を。」

今月の新商品
STELLA BLANC(ステラ・ブラン)
濃厚なミルクの甘みが口いっぱいに広がり、胃に届く前に蒸発する特殊製法を採用したカロリーゼロのプレミアムアイス。発売前から予約が殺到する話題の逸品。

第8話「セレスティア」

 エターナル・ネスト級生体宇宙母艦《セレスティア》の巨大な船体が、深海に潜む巨獣のようにゆっくりと脈打った。生命の鼓動にも似た微かな振動が、真空の宇宙空間へと静かに波及していく。次の瞬間、艦首下部に位置する巨大な格納口が左右へと割れるように開き始めた。

それは無機質な機械式ハッチの開閉とは一線を画していた。幾重にも重なり合った外殻が、大輪の花弁がほころぶようにしなやかに形を変え、その奥底から柔らかな蒼白い光が溢れ出してくる。その幻想的な光景は、あたかも巨大な生命体が「どうぞ」と慈愛に満ちた仕草で、彼らを迎え入れてくれているかのようだった。

「これが……」

リュウジは思わず息を呑んだ。

「生体宇宙母艦……」

セイヤも窓の向こうを見つめたまま、小さく頷く。コスモ・アカデミア号も巨大な宇宙船ではある。しかし目の前の《セレスティア》は、巨大な「艦」というより、一つの生きた惑星が宇宙を泳いでいるような圧倒的な存在感を放っていた。

『誘導を開始します。どうぞ、そのままお進みください』

通信機からエリオ・ミレイス少尉の穏やかな声が流れる。

「了解。誘導ビーコン、正常作動。進入経路を受信しました」

セイヤが計器を確認しながら報告した。副操縦席に座るレオン・アークライト少尉は、モニターへ視線を向けたまま静かに頷いた。

「よし、このまま進もう。セイヤ、慌てなくていい。誘導どおりに入れば大丈夫だ」

「はい」

セイヤが操縦桿をわずかに倒すと、シャトルは姿勢を崩すことなく巨大な格納口へと吸い込まれていく。その後方では、誘導ビームに包まれた《シルバー・マーチ号》が、静かな従者のように続いていた。

格納口をくぐり抜けた瞬間、景色が一変する。外宇宙の漆黒は瞬時に消え去り、視界のすべてが柔らかな光に満ちた巨大な内部空間へと塗り替えられた。

「広い……」

セイヤが思わず漏らした感嘆の声に、レオンが口角を上げた。

「全長は約三千メートル。コスモ・アカデミア号の約三倍だ」

「三倍……」

リュウジが驚きを隠せず、短く口笛を吹いた。

「そりゃデカいわけだ」

バルド・グレイン曹長が豪快に笑い飛ばした。


「はっはっは!新人は何でも大きく見えるもんだ。だが、見とれてると壁にぶつかるぞ。それで始末書を書いた奴を何人も見てきたからな」

リュウジは苦笑いを浮かべ、肩をすくめる。

「曹長、それを今言いますか?」

「今だから言うんだ。気を引き締めろよ」

そんな軽妙なやり取りに、機内の緊張していた空気が少しだけ和らいだ。
しかし、その直後だった。操縦桿を握るセイヤの体が、無意識のうちにじわりと右へ傾く。それに呼応するように、シャトルの機体もわずかに傾き始めた。

「おい、セイヤ君。君、ちょっと傾いていないか?」

レオンが焦りを滲ませて指摘する。その言葉に反応した全員が、無意識に体を硬直させ、機体の傾きとは逆方向へ一斉に首をかしげた。

「セイヤ君、傾いてるよ。ほら、修正しようか」

「了解!」

セイヤが元気よく返事をすると同時に、シャトルはゆっくりと水平に戻っていく。全員が安堵の息を漏らした瞬間、リュウジが叫んだ。

「バルド曹長が変なこと言うから、セイヤの平衡感覚が狂ったじゃないですか!」

「すまんすまん、ついな」

「バルド!冗談もほどほどにしろ。今のは減給もんだぞ」

レオンの厳しい追求に、バルドが慌てて手を振る。

「いや、待ってください。場の空気を和らげようとしただけで……」

「フッ、大丈夫ですよ。立て直しましたから」

セイヤが親指を立て、不敵な笑みでウインクしてみせた。

レオンは呆れたように溜息をつき、天を仰いだ。

「『グッジョブ!』じゃねえよ!」

リュウジの本気のツッコミが飛び、機内にどっと笑いが沸き起こった。

そんな喧騒をよそに、ポックスは食い入るように《セレスティア》の内部を観察していた。格納庫だけでも野球場が何面も収まるほどの広大さがある。天井ははるか頭上まで続き、視界を遮るような柱は見当たらない。

それほどの巨大空間でありながら圧迫感はなく、むしろ不思議な開放感に包まれていた。床面へ近づくにつれ、淡い光が進路を導くように帯状に灯っていく。

「気になりますか?」

隣から穏やかな声がした。アイリス・フェルナ少尉だった。

「はい」

ポックスは素直に頷く。

「この艦が生命体だなんて、にわかには信じられません……」

ポックスは興味深そうに呟いた。
「床面の発光パターンが、こちらの機体速度に合わせて変化しています。着艦支援を生体組織そのものが行っているのでしょう」

「面白い……」


ポックスの目が少年のように輝いた。

「外壁そのものが微細に振動しています。ですが、その振動数に一切の無駄がありません。構造材でありながら循環器官でもある……そのように見えます」

アイリスは嬉しそうに目を細めた。

「私も同じように感じました。でも、あまりはしゃぎすぎちゃダメよ?」

図星を突かれたのか、ポックスは恥ずかしそうにうつむいた。やがてシャトルは静かに着地し、微かな余韻を残して停止した。少し遅れて、《シルバー・マーチ号》も巨大な着艦スペースへと無事に収まる。

「着艦完了です」

セイヤが報告し、安堵とともに大きく息を吐き出した。

「よく頑張ったな、セイヤ」

レオンがその肩を叩く。

「……とはいえ、任務はまだ終わっていない。帰投して報告を終えるまでが任務だ。最後まで気を抜かないように」

「はい!」

力強い返事が機内に響き渡る。レオンが座席から立ち上がった。

「では、行こうか」

ハッチが音もなく滑るように開く。外から流れ込んできた空気は、宇宙船の内部とは思えないほど澄み切っていた。ほのかに花の香りを思わせる芳香が混じり、冷たくも暑くもない、肌をなでるような心地よい温度が全身を包み込む。

「ようこそ、《セレスティア》へ」

広大な格納庫の中央で彼らを待っていたのは、先ほど通信モニター越しに顔を合わせた青年士官だった。銀白色の制服を端正に着こなし、穏やかな笑みを浮かべて一礼する。

「私はリヴィア星航宙隊所属、エリオ・ミレイス少尉です。ルミの育成を担当しております」

青年は凛とした声で名乗った。

「本日はセレナ・アルシア大佐に代わり、皆様を艦内へご案内いたします」

レオンが一歩前へ出て、規律正しく敬礼を返した。

「コスモ・アカデミア号実習隊、引率教官のレオン・アークライト少尉です。このたびは救助ならびにご厚意、心より感謝いたします」

その後ろで、セイヤたちも緊張した面持ちで一斉に敬礼する。エリオはそれを見て、柔和な笑みを深めた。

「こちらこそ、ルミを助けていただきありがとうございました。母艦を代表して、皆様を歓迎いたします。セレナ大佐がお待ちです。どうぞ、《セレスティア》の艦内をご案内いたします」

一行は顔を見合わせ、小さく頷き合った。未知の文明との真の邂逅は、今ここから始まろうとしていた。

第9話に続く

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