登場人物紹介
■ セイヤ 風紀を愛する生徒会長。今日も正論で突っ走る。
■ ポックス 冷静沈着な副会長。論理を愛するバルタン星人。
■ クロ 感情を得ようとする推定10億歳のアンドロイド。
■ リュウジ 頼れる幼馴染。仲間思いの生徒会メンバー。
■ ギル 岩石星人の風紀委員。見た目は怖いが五つ子の父親。
■ カズマ 新聞部の特ダネ記者。艦内の噂話ならお任せ。
■ エミリア 生徒会書記。優秀な参謀役でセイヤの彼女。ミリィの姉(双子)
■ ミリィ 明るく元気な医療部志望。リュウジの彼女。エミリアの妹(双子)
■ ヴァル 穏やかな流体生命体。優しさ溢れる癒やし担当。
■ハンク艦長 コスモ・アカデミア号艦長。豪快な性格。
■ポックル副長 コスモ・アカデミア号副長。冷静沈着。ポックスの父親。
■セイゴ コスモ・アカデミア号操舵士。誠実な性格。セイヤの父。
■リュウジロウ コスモ・アカデミア号機関主任。リュウジの父。
前回のあらすじ
極寒の惑星で遭難したセイヤたちは、独自の技術で温泉やビーチを備えた驚異の基地を築いていた。合流したエミリアたちはその充実ぶりに呆れるが、セイヤたちの逞しさと絆を再確認する。帰還を促すも、基地の完成を目指し居残りを主張する一同。最後はセイヤとエミリアの抱擁を仲間が温かく見守り、大団円を迎える。
第9章「新たな任務」前編
救助シャトルは、コスモ・アカデミア号の巨大な格納庫へとゆっくり降下していった。重厚な着陸脚がデッキを捉えると、腹に響くような轟音が静かに収まっていく。
ハッチが重々しく開くと同時に、待ちわびていた整備員や医療スタッフ、そして大勢の艦内クルーたちが一斉に駆け寄った。
「帰ってきたぞ!」
「生徒会の連中だ!」
熱気混じりの歓声と割れんばかりの拍手が、広大な格納庫の隅々まで響き渡る。
先頭に立ったセイヤは、いつものように凛と背筋を伸ばし、力強く敬礼を捧げた。
「ただいま帰還いたしました!」
その堂々たる第一声に応えるように、格納庫には先ほどを上回る地鳴りのような拍手が湧き起こる。その熱狂ぶりに、後ろに続くリュウジは照れ臭そうに頭をかいた。
「参ったな、なんか英雄扱いされると柄にもなく照れるぜ」
ギルは重厚な体躯を揺らして静かに頷き、クロは感情の読めない冷静な瞳で周囲の喧騒を見回している。そんな中、カズマだけは職業病か、早速愛用のカメラを構えてシャッターを切っていた。
「歴史的帰還の瞬間、っと……」
「逆だろ、こっちが撮られる側なんだよ!」
リュウジの鋭いツッコミが飛ぶと、格納庫の緊張感は一気に解け、温かな笑いに包まれた。こうして六人は、多くの仲間に見守られながら、無事コスモ・アカデミア号への帰還を果たしたのだった。
数時間後。艦内の第一会議室では、今回の事故に関する正式な報告会が執り行われていた。上座には重鎮であるハンク艦長とポックル副長が並び、その傍らには操舵士のセイゴが控えている。対面にはエミリア、ミリィ、ヴァルの三名、そして周囲を固めるのは、厳しい表情を浮かべた研究部門や技術部門の責任者たちだ。室内には、軍事作戦さながらの張り詰めた空気が漂っていた。
「それでは、報告を始めます」
セイヤが凛とした面持ちで立ち上がると、背後の大型モニターに洞窟の精緻な見取り図が映し出された。会議室の視線が一斉に彼へと注がれる。
「フロストガルドの周回軌道へ向かう途上で激しい磁気嵐に遭遇。最短ルートでの突破を試みましたが、直後に予期せぬ小惑星群と接触しました。回避行動も虚しく左翼に直撃を受け、操舵不能に陥った機体は、そのまま惑星フロストガルドへと墜落を余儀なくされたのです」
「墜落後、北西三・二キロ地点にて顕著な地熱反応を確認。そこを拠点とし、内部温度が十五度で安定している巨大な洞窟を発見しました」
次々と切り替わるデータに、専門家たちが身を乗り出す。
「さらに、洞窟奥部にて天然温泉を確認」
研究スタッフたちが驚きに頷き合う中、セイヤは淡々と説明を続けた。
「これを利用し、まずは地熱発電設備を構築。安定した電力確保に成功しました。また、食糧問題の解決策として水耕栽培室の建造を検討しましたが、地熱だけでは将来的な電力不足が懸念されたため、地上に風力発電設備を増設しています」
モニターには、吹き荒れる吹雪の中、断崖の上で力強く回転する巨大な風車の映像が映し出された。その光景に、今度は技術部門の責任者たちからどよめきが漏れる。研究部門がざわつく。
「水耕栽培室の建設、地下水脈での魚類の発見、および養殖計画の立案。さらには居住区の整備と、サウナの完成……」
矢継ぎ早に繰り出される驚異的な復興スピードに、出席者たちは固唾を呑んで聞き入っていた。ここまでは、誰もが彼らの生存能力に純粋な敬意を払っていたのだ。しかし、説明が佳境に入ったところで、モニターに最後の一枚が表示された瞬間だった。そこに映し出されたのは、燦々と降り注ぐ人工太陽灯の光に照らされた、白砂の広がる「南国ビーチ」の光景だった。会議室を、それまでの熱気とは正反対の、凍り付いたような沈黙が支配する。
「……そしてこちらが、我々が総力を挙げて建設したビーチです」
セイヤは、一点の曇りもない堂々とした口調で言い放った。その隣で、リュウジは深い絶望とともに両手で顔を覆った。(終わった……。全部台無しだ……!)
ハンク艦長は太い腕を組み、呆れたように深く息を吐いた。
「……お前たち。一つだけ確認させろ。本当に遭難していたんだな?」
艦長のその言葉が引き金となり、張り詰めていた会議室にドッと笑いが漏れた。そこで、ポックスが静かに立ち上がった。
「……追加の報告事項があります」
その冷徹なまでの落ち着きを湛えた声に、室内の空気は再び一変し、鋭く引き締まった。彼が手元の端末を操作すると、メインモニターに未知の鉱石の解析データが映し出される。
「大破したシャトルの通信設備を修復する過程で、特殊な性質を持つ新たな鉱石を発見いたしました」
「通信回路の一部を代替したところ、従来素材を大きく上回る性能を確認しました」
その言葉に、研究主任が身を乗り出した。
「どの程度だ?」
「理論値では超長距離通信速度が約三倍。通信ノイズは大幅に減少し、エネルギー効率も飛躍的に向上します」
会議室が、にわかにどよめきに包まれた。
「これは……」
「宇宙通信技術の歴史が変わるぞ」
専門家たちが色めき立つ中、ポックスは淡々と、しかし冷徹な事実を付け加えた。
「なお、実証試験は未実施です」
ハンク艦長が怪訝そうに眉をひそめた。
「……理由は?」
ポックスは一切の迷いを見せず、即座に答えた。
「途中からビーチ建設計画へ移行したためです」
「…………」
会議室にいた全員が、石像のように固まった。沈黙に耐えかねたように、リュウジが机へ突っ伏して叫ぶ。
「正直すぎる!」
ハンク艦長は深く息を吐き、改めて一同を見渡した。
「まず……全員、よく生きて帰った」
その言葉に、セイヤたち六人は一斉に背筋を伸ばし、力強く敬礼を捧げた。
「ありがとうございます!」
「極限状態での生存、自律的な拠点の構築、そして何より――新たな鉱石を二種類も発見したことは特筆に値する」
艦長が背後のモニターを指し示すと、そこには未知の輝きを放つ鉱石のデータが並んだ。
「フロスト鉱石、そして新通信素材。これはコスモ・アカデミア号の歴史始まって以来の大発見だ」
その宣言とともに、会議室にいた研究部門のスタッフたちから、惜しみない拍手が沸き起こった。しかし、ハンク艦長はそこで言葉を切ると、表情をわずかに引き締めて続けた。
「……だが」
全員の背筋が、今度は緊張でピンと伸びた。
「ビーチを優先するな」
一瞬の静寂。その後、会議室は先ほど以上の爆笑に包まれた。隣に座るポックル副長も、こらえきれずに苦笑を漏らしている。
「サウナまでは理解できる。水風呂も百歩譲ろう。だが、ビーチは二百歩行き過ぎだ」
「そんなにですか!」
リュウジが思わず叫ぶと、さらに笑いの渦が広がった。ようやく笑いが落ち着いた頃、ハンク艦長は表情を険しくし、正式な命令書を読み上げた。
「これより、お前たちには正式任務を命じる」
大型モニターに、新たなプロジェクト名が躍った。
【フロストガルド開発計画】
・任務期間:三か月
・居住基地および採掘
・通信中継基地の建設
・フロスト鉱石および新通信素材(仮称:レゾニウム鉱石)の採掘
・新通信設備の実証試験
「了解しました!」セイヤは力強く敬礼を捧げた。
ハンク艦長が重々しく頷き、言葉を継ぐ。
「現地派遣メンバーを発表する。ポックル副長、リュウジロウ機関主任。そしてセイヤ、リュウジ、ポックス、クロ、ギル、カズマの六名だ」
名前を呼ばれた六人は、弾かれたように背筋を伸ばし、一斉に敬礼を返した。
「「「了解!」」」
「さらに、医療班よりミリィ。研究・解析担当としてヴァルを追加する」
その指名に、二人は弾かれたように立ち上がった。
「了解です!」
「了解いたしました」
元気よく答えるミリィと、穏やかに、しかし芯の通った声で応じるヴァル。
これで現地派遣の全メンバーが確定した。ハンク艦長は最後に、エミリアへと視線を向けた。
「エミリア」
「はい」
「君には、この艦に残ってもらう」
その一言に、会議室が水を打ったように静まり返った。
「今回の開発計画は、三か月に及ぶ長期任務となる。その間、生徒会会長代理として、このコスモ・アカデミア号の風紀と運営をまとめてほしい」
エミリアは一瞬だけセイヤを見つめた。その瞳には隠しきれない動揺が揺れていたが、すぐに寂しげな微笑を浮かべると、静かに右手を掲げた。
「……了解しました」
その声は微かに震えていた。セイヤは何も言わず、ただ彼女の横顔を、射抜くような眼差しでじっと見つめ続けていた。
三日後。コスモ・アカデミア号、ノースゲート格納庫。巨大な輸送シャトルの周囲では、慌ただしく出発の準備が進められていた。次々と積み込まれていくのは、膨大な建設資材や最新鋭の採掘機材だ。自律型採掘ドローン、高出力の通信設備、堅牢な居住ユニット、そして無骨な大型重機群。
これから始まる『フロストガルド開発計画』に必要な装備の数々が、整然と、かつ迅速にその巨大な腹の中へと搬入されていく。いよいよ出発の時が迫っていた。格納庫には見送りのクルーたちも大勢集まり、熱気と名残惜しさが入り混じった空気が漂っている。
その人だかりの中に、エミリアの姿があった。彼女はいつもの制服姿のまま、どこか寂しげな、けれど精一杯の柔らかな微笑みを浮かべて仲間たちを見送ろうとしていた。
「みんな、気を付けてね」
ミリィが少し残念そうに、眉を下げて言った。
「エミリアも一緒なら良かったのに。……ねえ、本当に残るの?」
「仕方ないわ」
エミリアは、どこか自分に言い聞かせるように微笑んだ。
「艦を守るのも、生徒会の立派な仕事だから。会長が不在の間、ここを任せられるのは私しかいないもの」
凛とした口調で答えたものの、その笑顔の奥には、仲間と離れることへの隠し切れない寂しさが滲んでいた。その時だった。タラップを上りかけていたセイヤが、不意に足を止めた。怪訝そうに見守る仲間たちの視線を背に、彼はゆっくりと踵を返し、地上で立ち尽くすエミリアの前まで歩み寄った。
「セイヤ……?」
エミリアが小さく首を傾げる。その瞳を真っ直ぐに見つめ、セイヤは迷いのない声で告げた。
「一緒に来てくれ」
「……え?」
予期せぬ言葉に、エミリアは思わず聞き返した。周囲の喧騒が、一瞬だけ遠のいたような気がした。
「フロストガルドには、君が必要だ」
セイヤの言葉は、熱を帯びた格納庫の空気さえも貫くほどに力強かった。
「でも……艦長が……」
「だから、今から頼みに行く」
あまりにも自然に、当然のことのようにセイヤは言い切った。
「来てくれ」
短く、だが拒絶を許さない響き。彼はそれだけ告げると、迷いのない足取りで再び歩き出した。
「えっ!?ちょ、ちょっと待って!」
呆然としていたエミリアだったが、慌ててその後を追った。その様子を見送りながら、リュウジが苦笑する。
「始まったな」
ミリィも肩をすくめた。
「止めても無駄ね」
ヴァルは静かに微笑む。
「セイヤらしいです」
艦長室の重厚な扉を、硬い音が叩く。
「失礼します」
返事を待たずに中へ入ると、デスクで書類に目を通していたハンク艦長が顔を上げた。
「どうした、セイヤ。出発直前に」
セイヤは艦長の正面に立つと、寸分の狂いもない動作で姿勢を正した。
「お願いがあります。エミリアも開発任務へ同行させてください」
その直後、室内は水を打ったような静寂に包まれた。ハンク艦長は太い腕を組み、鋭い視線をセイヤに向けた。
「理由を聞こう」
セイヤは一切の迷いを見せず、即座に答える。
「今回の任務は、単なる資源の採掘だけではありません。採掘基地、居住基地、通信基地、そして研究施設……これら全てを、わずか三か月という短期間で完成させる必要があります」
セイヤは一拍置いてから、さらに言葉を継いだ。
「基地全体の運営、各班との連携、そして緻密な工程管理。これらを完璧にこなせる人材は、彼女しかいません」
その言葉に、傍らで聞いていたポックル副長が静かに頷いた。
「確かに。これほどの基地建設規模となれば、現場の副責任者は不可欠でしょう」
しかし、ハンク艦長はまだ頷かなかった。
「では、生徒会はどうする?会長と副会長に加え、書記まで不在にするわけにはいかん」
その問いに、セイヤの背後から一歩前に出て答えたのは、エミリアだった。
「一年生役員へ権限を委任します。会長代理としての業務手順書、および各部署への引き継ぎ資料はすでに完成させ、共有済みです」
淀みのない説明に、艦長の眉がわずかに動く。エミリアはさらに言葉を重ねた。
「緊急案件については、超長距離通信で対応可能です。三か月程度であれば、艦内の運営に支障は出ません」
ハンク艦長は少し目を丸くした。
「そこまで準備していたのか」
エミリアは少し照れながら、はにかむように笑う。
「……あらゆる状況を想定していますので」
沈黙が流れる。やがてハンク艦長は大きく息を吐くと、豪快に笑った。
「最初から、そのつもりだったな」
「まぁ、そうなったらいいなぐらいわ…」
エミリアは観念したように苦笑する。ハンク艦長はゆっくりと椅子から立ち上がった。
「よし。エミリア、フロストガルド開発任務への同行を許可する」
エミリアの瞳が、ぱっと大きく輝いた。
「ありがとうございます!」
ハンク艦長はさらに言葉を継いだ。
「ただし、セイヤ。優秀な副官を連れて行く以上、必ず全員無事で帰還しろ。いいな」
セイヤは力強く敬礼を捧げた。
「了解しました!」
ノースゲート格納庫。二人が戻ると、そこにはすでに出発を待つ仲間たちが勢揃いしていた。
「おっ!」
真っ先に気づいたリュウジが、ニカッと歯を見せて笑う。
「その顔、成功したみたいだな」
「もちろん!」
エミリアは弾むような声で答え、満面の笑みを浮かべた。
「やったぁ!」
ミリィがその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。ヴァルも穏やかに、しかし心底嬉しそうに頷いた。
「これで本当に、全員揃いましたね」
ポックスは指先で眼鏡のブリッジを軽く押し上げ、冷静な口調の中に確かな熱を込めて言った。
「生徒会執行部、全員集合です」
クロもその無機質な瞳に微かな光を宿し、淡々と、けれど力強く言葉を継ぐ。
「任務成功率が大幅に上昇しました」
最後尾に控えていたギルが、重厚な声で短く呟いた。
「……安心した」
セイヤは、エミリアに向かって静かに右手を差し出した。
「行こう」
エミリアはその手を、決意を込めてしっかりと握り返す。
「うん!」
二人は肩を並べ、力強い足取りでタラップを上がっていった。
その後ろを、信頼で結ばれた仲間たちが笑顔で続いていく。シャトルのハッチが重厚な音を立てて閉じられた。直後、格納庫全体を震わせるような轟音とともに、メインエンジンが咆哮を上げる。青白い噴射炎が暗い宇宙を鮮烈に照らし出し、大型シャトルはゆっくりと、しかし力強く母艦を離れていった。彼らが向かう先は、あの極寒の惑星フロストガルド。
だが、今度は絶望に沈む遭難者としてではない。未知のフロンティアを切り拓く、誇り高き開拓チームとして。
――「セイヤ遭難する」完


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