宇宙生徒会長セイヤ 第66話① 「セイヤ、モテ期到来?」

2.宇宙生徒会長セイヤ

第1章「噂の始まり」


 コスモ・アカデミア号、中央通路。昼休み直前の艦内は多くの生徒で賑わっていた。
その人混みの中を、片手にアナライザー・パッドを持ちセイヤはいつもの真顔で歩いている。表示されているのは風紀違反報告一覧だった。

「廊下での飲食……二件」
「居住区画Bで深夜騒音……一件」
「……む」

セイヤの視線が止まる。通路脇を大量の教材コンテナを抱えた女子生徒が、ふらふらしながら歩いていた。

「重……っ」

次の瞬間、コンテナが傾く。

「きゃっ!?」

セイヤが即座に飛び出した。

ガシッ。

落下寸前でコンテナを支える。

「大丈夫か?」

女子生徒は目を丸くした。

「せ、セイヤ会長……?」

セイヤは真顔で言う。

「前方確認不足だ」
「重量物運搬時は視界確保を優先しろ」

女子生徒はぽかんとしている。

「え……あ、はい……」

セイヤはそのままコンテナを持ち上げる。

「どこへ運ぶ?」

女子生徒は慌てて答える。

「きょ、教室棟Bです」

セイヤは無言で歩き出した。

「えっ、会長!?」

女子生徒が慌てて追いかける。

周囲の生徒達がざわついていた。
「あっまたセイヤ会長がなんかやってる」
「なんだかんだ言ってセイヤ会長やさしいからな……」
「うん、発言がおかしいだけで基本やさしい」

しかし当のセイヤは完全に通常運転だった。
「重心が不安定だ」
「次回からは台車を使用しろ」

女子生徒は苦笑する。

「は、はい……」

教室棟前でセイヤはコンテナを丁寧に降ろした。

「完了した」

女子生徒は少し頬を赤くする。

「あ、ありがとうございました!」

セイヤは真顔で頷く。
「礼には及ばない」
「風紀を守る者として当然だ」

女子生徒は一瞬止まる。
「……え?」

セイヤは真剣だった。

「教材散乱は通行妨害へ繋がる」
「未然防止は重要だ」

女子生徒は数秒黙った後、吹き出した。
「ふふっ……変な人」


その頃、食堂ではいつものメンバーが昼食を取っていた。リュウジがパンをかじりながら言う。

「そういやさっき、セイヤが女子助けてたぞ」

ミリィは普通に頷く。
「セイヤって困ってる人いたらすぐ助けるもんね」
ヴァルも静かに微笑む。
「……いつも通り」
エミリアも特に驚かなかった。
「風紀絡むと放っておけないのよ、あの人」

リュウジがニヤニヤする。
「いや今回そこじゃねぇんだよ」

その時、近くの席の女子生徒達の声が聞こえてくる。
「でもちょっとカッコよくなかった?」
「分かる」
「意外と優しいし」

数秒停止。エミリアの箸が止まる。
「……は?」

リュウジが吹き出す。
「そっちに反応すんのかよ!」

クロは静かにアナライザー・パッドを見ていた。
「周囲女子生徒の反応値が上昇しています」

ポックスが即答する。
「気のせいです」

リュウジが吹き出す。
「マジでモテ始めてんじゃねぇか」
「いやぁ、ついにセイヤにも春が来たか?」

エミリアは即答した。
「来てない」

リュウジが笑う。
「なんでお前が否定すんだよ」

そこへセイヤ本人がちょうど食堂へ入ってきた。

「何の話だ?」

リュウジがニヤニヤしながら言う。

「お前、女子に人気出始めてるらしいぞ」

セイヤは真顔だった。
「なぜ風紀活動で人気が出る?」

全員吹き出す。クロだけが静かに周囲を観察していた。
「……なるほど」

ポックスが嫌な予感を覚える。
「何を理解したのですか?」

クロは真面目だった。
「セイヤは“無自覚好感度上昇型”です」

リュウジが吹き出す。
「なんだその恋愛シミュレーションみてぇな分類!」

クロは続ける。
「本人に恋愛的自覚が一切無いにも関わらず、周囲の好感度だけが上昇していく危険タイプです」

エミリアの箸が止まる。
「……危険タイプ?」

クロは頷く。
「非常に厄介です」

セイヤは真顔で聞く。
「何の話だ?」

リュウジが腹を抱える。
「お前の話だよ!!」

クロはさらに分析を続ける。
「特徴として」
「困っている相手を無条件で助ける」
「距離感が近い」
「時々だけ良い事を言う」

リュウジが笑う。
「時々なんだな!」

クロは頷いた。
「さらに本人が天然のため、自分が好感を得ている事に気づきません」

エミリアが小さく視線を逸らす。
ポックスが静かに呟く。
「確かに危険ですね……」

セイヤだけが本気で困惑していた。
「何の話なんだ?」

ミリィが笑いながら言う。
「セイヤって意外とモテるんじゃない?って話!」

セイヤは即答した。
「私にはエミリアがいる」

エミリア停止。

リュウジ、机を叩いて爆笑。
「お前そういうとこなんだよ!!!!」

ミリィ「あははははっ!!」
ヴァルも肩を震わせる。

クロは真面目に分析する。
「周囲好感度を急上昇させる危険発言です」

エミリアだけ真っ赤だった。

セイヤは首を傾げる。
「事実だろ?」

その時だった。ポックスが静かに立ち上がる。そして。スッ――。
セイヤへ向かって敬礼した。

リュウジ「お前何してんの!?」
ポックスは真顔だった。

「見事です」

さらに続ける。

「私には到底できません」

ヴァルが少し驚いたように目を瞬かせる。
ポックスは静かに言った。

「思った事を、迷わず真っ直ぐ言葉にする」
「……尊敬します」

エミリアは真っ赤なまま固まっている。

リュウジは腹を抱えた。
「おまえまで何言ってんだよ!!」

クロは静かに頷く。
「なるほど」
「これが“イケメン”ですか」

セイヤだけが本気で困惑していた。
「だから何の話なんだ?」

全員同時。
「そこだよ!!」

この日の夜、艦内掲示板の匿名スレッドに新たな投稿が書き込まれていた。

【実はセイヤ会長ってちょっとカッコよくない?】

そしてその投稿は、わずか数時間で艦内中へ拡散されていくのだった。

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