宇宙生徒会長セイヤ 第67話⑤「ポックス、バグる」

2.宇宙生徒会長セイヤ

 第5章「バグではない」

 部屋のドアが勢いよく開いた。
「ポックス、大丈夫なの!?」  
ヴァルが飛び込むように入ってくる。
その後ろにはエミリアの姿もあった。
「何の騒ぎかと思えば……」  
呆れ顔のエミリアに、クロが淡々と、しかし残酷なまでに正確な状況報告を返す。
「ポックスが恋煩いを拗らせ、行動に著しい異常をきたしております」  
エミリアは即座に頭を抱えた。
「クロ! もうちょっと別の言い方があるでしょ!」
「こうしている間にも、彼の呼吸は停止しています」  
リュウジが深刻な顔で付け加える。
「それだよ!!」   
ヴァルは血相を変えてポックスに駆け寄った。
「……落ち着いて、息を吸って!」  
ポックスは呼吸を忘れたまま、コクコクと頷いた。
数秒後、ようやく肺に空気が送り込まれる。
「スゥゥゥゥーーーーッ!!」
「……問題ありません」  
セイヤは腕を組み、冷静に分析する。
「つまり、ヴァルを見ると壊れるんだな?」
「はい」  
ポックスの即答に、リュウジが苦笑した。
「雑だなぁ、おい」  
しかしポックスは至って真面目に、自身の不具合を列挙し始めた。
「呼吸停止、瞬目停止、空間認識異常、および判断能力の著しい低下を確認しています」  
そこへクロが静かに補足を加える。
「壁への衝突、計二回です」
「細けぇな!」  
リュウジのツッコミが飛ぶ中、ヴァルだけが本気で心配そうだった。
「……どうして?」  
ヴァルの問いに、ポックスは語りだした。
「はい。私は長年、感情を抑制してきました」
 部屋の空気が、ふっと静まり返る。ポックスは真顔のまま、淡々と話を続けた。
「ですが最近、感情を否定する必要はないと考えるようになりました」
クロのエモーションチップ騒動、そしてセイヤとエミリアの関係。仲間たちの姿を間近で見てきたことが、彼の中に変化をもたらしていた。
「そのため、感情抑制を解除しました」
「解除……?」  
ミリィが呆然と呟くと、ポックスは「はい」と短く応じ、静かに言葉を継いだ。
「その結果、ヴァルへの感情が一気に流入しました」  
数秒の沈黙。リュウジがポツリと漏らす。
「決壊したダムのようだな」
「適切な表現です」  
クロが同意する中、ポックスは静かに視線を落とした。
「私は、感情的な行動はできないのでしょうか」
静かな沈黙。ヴァルも少し不安そうにポックスを見つめている。 
その時だった。セイヤが静かに口を開く。
「違う」  
全員の視線がセイヤに集まった。彼は至って真面目な顔で語りかける。
「急に無防備になりすぎただけだ。感情ってのは、抑えるか全部出すかの二択じゃない」  
ポックスは黙ってその言葉に耳を傾けていた。
「その時の気持ちに、ちゃんと向き合えばいい。ヴァルを好きなら、ただそれを受け入れればいいだけだ」
エミリアが小さく笑った。
「珍しくちゃんとした事言ってる」
リュウジが言った。
「珍しくは余計だろ」
ヴァルは少し照れながらポックスを見た。
「……私は、今日のポックス嫌じゃなかったよ?」
ヴァルは少し恥ずかしそうに笑う。
「……頑張ってくれてるの、嬉しかった」
ミリィがポックスの方を向いて言う。
「そーなんだって!ポックス聞いてる!」
ポックスは静かにヴァルを見る。今度は感情を抑制しつつ、でもゆっくり呼吸を整えて素直な気持ちを伝える。
「……私は」
ポックスは少しだけ視線を逸らした。
「あなたと一緒にいる時間が好きです」
ヴァルの頬が少し赤くなる。
「……うん」
静かな空気が流れる。
数秒後。ポックスはゆっくり姿勢を正した。
そして。スッ――。
セイヤへ敬礼。
セイヤも静かに敬礼を返す。
「じゃあ、おれも」
そう言ってリュウジも敬礼。
ミリィとエミリアも微笑みながら敬礼。
クロは静かにアナライザー・パッドへ入力した。
【ポックス:重大アップデート確認】
ポックスは即答した。
「していません」
ヴァルは小さく笑った。
「……でも、ちょっと素直になった」
ポックスは少しだけ視線を逸らす。
そして静かに、小さく頷いた。


第67話「ポックス、バグる」終わり

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