宇宙生徒会長セイヤ 第67話④「ポックス、バグる」

2.宇宙生徒会長セイヤ

 第4章「相談」 

 医務室での診断結果は「異常なし」だった。しかし、心配が拭えないヴァルはポックスを家まで送り届け、彼をベッドに寝かしつけると、手早く軽い料理を作った。
「……今日はありがとう。ゆっくり休んでね」
ヴァルの言葉に、ポックスは頷く。
「……すまない。いろいろと、世話をかけた」
ヴァルは少し照れくさそうに微笑んだ。
「……また、どこか行こうね?」
そう言い残して、彼女は帰っていった。

 数時間後、ポックスは静まり返った自室で、ひとりアナライザー・パッドを見つめていた。画面には【重大な異常継続中】という無機質な警告灯が点滅している。
「…………」
ポックスは深く、重い吐息を漏らした。
今日一日の自身の挙動を脳内で反芻する。
呼吸の停止、瞬きの消失。空間認識の歪みに伴う判断能力の著しい低下。壁への衝突、そして存在しない椅子への着席。
客観的に見て、どれも正常な個体の振る舞いとは言い難い。
ポックスは、冷徹なまでの自己分析の末に一つの結論を導き出した。
「……これは、極めて危険な状態です」

 ポックスはクロの部屋を訪れていた。自動ドアが左右に開く。
室内の中央、ニューロ・レストポッドの中でクロが爆睡していた。
「クロ」
ポックスが呼びかけると、数秒のタイムラグを経てクロが起動した。
「おはようございます」ポックスは至って真剣な面持ちで告げた。
「私の行動に、重大な異常が発生しています」
クロは即座にアナライザー・パッドを起動させた。
「症状を説明してください」
ポックスは静かに頷き、自己診断の結果を報告する。
「ヴァルを見ると、呼吸を忘れます」
クロが淡々と入力する。画面には【確認済】の文字。
「瞬きも停止します」
「【確認済】」
「方向感覚も著しく乱れました」
すると、クロが補足するように言った。
「その他。椅子存在認識の喪失、コーヒーの気管侵入、壁への衝突、および敬礼頻度の異常増加」
画面にはそれらすべてに【確認済】のチェックが入れられていく。

数秒の沈黙が流れた。ポックスがゆっくりと顔を上げる。
「……なぜ、それを知っているのですか」  
クロは真顔のまま、淡々と答えた。
「本日、観察済みですので」  
ポックスの思考が完全停止する。
「……観察?」
「はい。リュウジ、ミリィと共に尾行していました」  
その瞬間、背後のドアが勢いよく跳ね上がった。
「バラすなよ!」  
飛び込んできたリュウジが叫ぶ。その後ろでは、ミリィが腹を抱えて爆笑していた。
「あははははっ! 最高だったよポックス!」  
ポックスは静かに目を閉じた。
「……やはり、背後に感じていた気配は気のせいではありませんでしたか」
彼は深く、今日一番の重いため息を吐き出した。
「……全部知っているなら、もう聞かないでください」
クロは構わず、真剣な面持ちで分析を続ける。
「総合的に判断します」
数秒の沈黙の後、クロが重々しく口を開いた。
「かなりこじらせた恋煩いです」
「直球すぎてデッドボールだよ! もっとオブラートって言葉を知らねえのか!」 リュウジが頭を抱えて叫ぶが、ポックスはショックのあまり彫像のように硬直している。クロは淡々と続けた。
「通常の対応範囲を超えています。これは『セイヤ案件』になります」
「なんだよセイヤ案件って! 丸投げかよ!」

 数分後、部屋のドアが開きセイヤが入ってきた。
「どうした?」  
クロが即座に答える。
「ポックスが重症です」  
セイヤは真面目にポックスを見つめた。ポックスは静かに姿勢を正すと、スッ……と、淀みのない動作で敬礼した。セイヤもまた、無言で敬礼を返す。
「なんでお互い敬礼してんだよ!!」
リュウジのツッコミを無視して、セイヤは腕を組んだ。
「なるほど」  
ポックスは至って真剣だった。
「助けてください」  
数秒の沈黙…セイヤは真面目な面持ちで深く頷いた。
「任せろ」
「不安しかねえ!」  
クロは静かにアナライザー・パッドへ入力した。

【ポックス救助作戦:開始】  

リュウジは頭を抱えて叫んだ。
「だから、なんで軍事作戦みてえなんだよ!」

次章に続く

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