第2章「異常発生」
今日はいつもより少しだけおしゃれをしている。柔らかな白系の上着に、丁寧に整えられた髪。普段の穏やかな雰囲気はそのままに、どこか特別感があった。ヴァルは少し照れたように視線を逸らし、小さく尋ねる。
「……変じゃない?」
少し離れたところに隠れていた『ガヤ3人組』のリュウジが小さく呟く。
「……あっ」
ミリィもニヤリと笑う。
「来る」
クロだけが冷静だった。
「来ますね」
数秒の沈黙の後、ポックスはヴァルを見つめたまま固まっている。
思考処理が明らかに追いついていなかった。
そして次の瞬間、スッ――。
ポックス、無意識に敬礼。
ヴァルが思わず吹き出す。
「……フフッ、また敬礼してる」
ミリィ、腹を抱えて崩壊。
「あははははっ!!」
リュウジも肩を震わせる。
「だろうな!!」
クロは静かにアナライザー・パッドへ入力した。
【ポックス:好意表現行動確認】
ポックス本人だけは至って真剣だった。
「……非常に良いと思います」
ポックスが真面目にそう告げると、ヴァルは少し嬉しそうに、そして少し照れたように笑った。
「……ありがと」
後方でアナライザー・パッドを操作していたクロが静かに報告する。
「ポックスの呼吸が先ほどから停止しているようです」
リュウジ。「……は?」ミリィ。「えっ」
ポックスの顔色がみるみる青ざめていく。
ヴァルが不思議そうに首を傾げた。
「……ポックス?」
その声で、ようやくポックスは我に返る。
「スゥゥゥゥーーーーッ!!」
ものすごい勢いで酸素を吸い込む。
「はぁ……はぁ……も、問題ありません……」
「つい、呼吸を忘れていました」
リュウジとミリィ、同時に地面へ突っ伏す。
「ぶっ……!!」
「あはははははっ!!」
笑いを堪えきれない。
クロは冷静にアナライザー・パッドを確認していた。
「呼吸、正常値へ復帰しました」
リュウジは涙を拭きながら言う。
「頼むから今後も生体チェックしてくれ……」
「ポックスが窒息しないように……っ!」
ミリィも床を叩きながら笑っている。
「見とれて酸欠になる人初めて見たぁぁ!!」
その横でヴァルだけが本気で心配そうだった。
「……ほんとに大丈夫?」
ポックスはまだ少し青い顔のまま、静かに頷いた。
「……問題ありません」
しかしその声には、まったく説得力が無かった。
ヴァルが「本当に?」と、さらに顔を近づけてポックスの顔を覗き込む。
「顔、まだ赤いよ?」
至近距離で潤んだ瞳に見つめられ、ポックスの思考回路が焼き切れるような音を立てた。
ポックス、完全停止。
数秒経過。
さらに数秒。
ポックス、今度は瞬きを忘れる。
クロが静かにアナライザー・パッドを確認していた。
【瞬目停止:1分経過】
ミリィ、肩を震わせる。「ダウン寸前だわ」
リュウジ。「ダメだ。タオルを投げてやらないと」
しかしポックス本人は完全停止したままだった。
やがて、目がどんどん充血していく。
そして――じわっ。目から涙が流れ始めた。
ヴァルが本気で慌てる。
「……どうしたの!?」
「ポックス、泣いてる?」
ポックスは真顔のまま答えた。
「違います」
「瞬きをしていないだけです」
クロが淡々と追記する。
【瞬目停止:3分経過】
リュウジ、ついに壁を叩いて崩壊。
「見とれてドライアイ起こすなぁぁ!!」
ミリィも笑いすぎてしゃがみ込んでいた。
「あははははっ!!」
ポックスは静かにアナライザー・パッドを取り出す。
そして極めて真剣な表情で入力した。
【重大な異常を確認】
その横で、ヴァルだけが小さく首を傾げていた。
「……?」
次章に続く


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