宇宙生徒会長セイヤ 第69話「ポックス、常連になる」③後編

2.宇宙生徒会長セイヤ

第3章 編 「皆勤賞」

前回のあらすじ
ヴァルがおでん係として定着した「居酒屋クロ」に仲間が集結する。連日通い詰めるポックスをクロが分析し、セイヤたちは来月の文化祭の出し物について議論を始める。過去の失敗を振り返りつつ、お化け屋敷やメイド喫茶が却下される中、ヴァルが「居酒屋」と呟く。文化祭に向けた新たな騒動の予感で幕を閉じる。

全員の動きが止まった。ヴァルは少し考え込むような仕草を見せ、確信を得たように言葉を続けた。

「文化祭で……居酒屋」

クロの動きがピタリと止まる。数秒の沈黙の後、彼は無言でアナライザー・パッドを取り出した。

【実現可能性:高】
【既存設備流用可能】
【利益見込み:良好】

「乗るな!」  リュウジが間髪入れずに突っ込みを入れた。
ミリィはパッと目を輝かせた。
「でも、ちょっと面白そうじゃない!」
セイヤも顎に手を当て、真面目に検討し始める。
「居酒屋、か……」
エミリアが不思議そうに首を傾げた。
「文化祭で居酒屋なんて、本当にできるの?」
「いや」
セイヤは静かに首を振った。
「どうせ店舗はホロデッキを使うんだ。この店をそのまま再現する必要はない」
「あっ、そっか!」
ミリィが身を乗り出すようにして声を弾ませた。
「全然違う店にしてもいいんだ!」
「演劇を見ながら食事ができる店とか……?」
エミリアも具体案を考え始める。
「だったら、カラオケなんかどうだ?」
リュウジが提案すると、ヴァルも楽しそうに小さく頷いた。
「……歌いながら、料理を食べる」

 ミリィが突然、勢いよく立ち上がった。
「それだったら、私やりたいことあるんだけど!」
「なんだよ、藪から棒に」
リュウジが怪訝そうな顔を向けると、ミリィは満面の笑みで宣言した。
「バンド演奏ができる『居酒屋クロ』!」
店内が数秒間、静止した。
「……誰が演奏すんだよ」
リュウジが呆れたようにツッコミを入れる。しかし、ミリィは当然と言わんばかりに胸を張った。
「私たちじゃん!」
その言葉に、エミリアの瞳がわずかに輝いた。
「いいわね、それ。面白そうじゃない」
ヴァルが控えめに、けれどしっかりと手を挙げた。
「……私も、やりたい」
意外な立候補に一同が視線を向けると、彼女は少しはにかみながら続けた。
「ギターを、アーク艦のシルフィに少しずつ教えてもらってるの」
その言葉に呼応するように、ポックスも静かに頷いた。
「それならば、私はキーボードを担当できます」
「キーボード弾けるんだ」
ヴァルが驚きに目を見開くと、ポックスは淡々と、しかしどこか誇らしげに答えた。
「はい」
ミリィが勢いよく、天井に届かんばかりに手を挙げる。
「私はヴォーカル! 主役は譲らないよ!」
「じゃあ、私はドラムね」
エミリアも楽しそうに続いた。
リュウジは苦笑しながら、頭を掻いた。
「……やれやれ。なら、俺もギターなら何とか弾けるぜ」
その時だった。
「……ベース、やる」
不意に背後から響いた低い声に、全員の動きが止まった。リュウジが勢いよく振り返る。
「お前、いつの間に来てたんだ!?」
そこには、カウンターの反対側にあるいつもの席で、平然とおでんを口に運んでいるギルの姿があった。クロが淡々と、補足するように口を開いた。
「ギルさんなら、先ほどからいらっしゃいましたよ」
「彼はポックスさんと並ぶ、当店の常連です」
「入口側の席を好んで利用されています。気配を消すのがお上手ですから」  ギルは表情を変えず、静かに頷いた。
「……ここが、落ち着く」
リュウジはガシガシと頭を抱えた。
「いつの間に常連が増えてやがんだ……」

 セイヤが勢いよく立ち上がった。一同の視線が彼に集まる中、生徒会長らしい威厳を漂わせ、力強く宣言する。
「よし。今年の生徒会の出し物は――」
一拍置いて、彼は全員の顔を見渡した。
「『立ち飲みライブハウスKURO』で決定だ!」
ミリィが椅子を蹴らんばかりの勢いで飛び上がった。
「やったー!」
エミリアもその熱気に当てられたように、楽しげに口角を上げる。
「いいんじゃない」
ヴァルも小さく、けれど力強く頷いた。
「……楽しみ」
クロが磨いていたグラスを置き、静かに、しかし確かな意志を込めて告げる。
「全面的に協力させていただきます」
「ははっ、店長が一番やる気満々じゃねぇか」
リュウジが愉快そうに笑い声を上げた。
すると、クロがふとポックスに視線を向けた。ポックスは相変わらず、カウンター右端の「特等席」で黙々とおでんを食べていた。
「ポックスさん」
「はい、何でしょうか」
「文化祭当日も、やはりその席に座るおつもりですか?」

数秒の沈黙が流れた。エミリアが堪えきれずに吹き出し、ミリィは椅子を叩いて爆笑した。
「あはは! 確かに、そこはもうポックスの指定席だもんね!」
「年間シートだからな、そこは!」
リュウジもニヤニヤしながら追撃の手を緩めない。しかし、ポックスはあくまで真顔を崩さず、
「違います。私はただ、おでんの品質を常に一定の距離から監視しているだけです」

 その時。セイヤが腕を組み、一同を見渡して言った。
「クロはメニュー開発を担当してくれ。他のメンバーは来週から演奏の練習開始だ」
テキパキと指示を出すセイヤに、リュウジがふと疑問を口にする。
「……ところでセイヤ。お前自身は何をやるんだ?」
セイヤは微塵の迷いもない真顔で答えた。

「パフォーマーだ」
全員の声が重なった。
「「「えっ!?」」」
 店内が一瞬、静まり返った。しかし、セイヤだけはどこまでも真剣な眼差しを崩さない。

「問題ない。すべては文化祭を成功させるためだ」

自信満々に言い切る彼を見て、エミリアはそっと頭を抱えた。
「……ここにきて、一番の不安要素が出てきたわね」
エミリアの呟きを皮切りに、居酒屋クロには再び大きな笑い声が広がった。

今夜もまた、おでんの温かな湯気と賑やかな笑い声に包まれながら、生徒会の一行による文化祭会議は、夜が更けるまで続いていくのだった。

次章に続く

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