前回のあらすじ
文化祭で「立ち飲みライブハウスKURO」を出店することになり、セイヤの指名でクロ、ポックス、ヴァルが中心となって設計を開始する。専門知識と現場の視点を活かした本格的な準備が進む中、常連のポックスとギルは「年間シート」での時間を満喫。仲間との絆が深まり、店は温かな活気に包まれていく。
第5章前編 「みんなの居場所」
その日の『居酒屋クロ』は、いつも以上に賑やかな活気に満ちていた。 文化祭の出し物に関する話し合いも一段落し、店内には食後の余韻を楽しむような、ゆったりとした空気が流れている。 ポックスとギルの二人は、相変わらず「年間指定席」と化したいつもの席に陣取っているが、今やその光景に異を唱える者は誰もいなかった。
ヴァルが忙しなく片付けをこなしながらも、時折おでん鍋の煮え具合を覗き込み、クロはカウンターの隅で静かにレジ締めを行っている。そんな穏やかな夜の空気を切り裂くように、店の扉が勢いよく開いた。
「おう、まだやってるか!」
聞き慣れた豪快な声に、店内の全員が弾かれたように振り向く。 そこに立っていたのは、ハンク艦長、リュウジロウ、セイゴ、そしてポックル副長。コスモ・アカデミア号を支える『大人組』の面々だった。
予期せぬ来客に、リュウジとセイヤが驚愕の表情を浮かべる。
「親父!?」
「父さん?」
リュウジとセイヤが同時に声を上げる。一方、ポックスは冷ややかな視線をポックル副長へ向けた。
「……またですか?」
その言葉に、ポックルは動じることなくポックルに目を向ける。
「お前こそ、毎日来ているんじゃないか」
「……っ」
図星を突かれたポックスは、言葉に詰まって視線を逸らした。 その光景を呆然と眺めていたミリィが、たまらず声を上げた。
「えっ!? なんで!? どうして艦長たちがここにいるの!?」
ハンク艦長はガハハと豪快に笑い飛ばす。
「なんでって、決まってるだろう。飯を食いに来たんだよ!」
リュウジロウも慣れた足取りで空いている席へと向かった。
「おいクロ、なんか腹にたまるもんはあるか」
問われたクロは、表情一つ変えずに提案する。
「左様でございますか。では、「愛情百二十パーセント・チャーハン」などいかがでしょうか?」
リュウジロウが満足げに頷いた。
「じゃあ、それだ。頼むぜ」
ポックル副長は、静かに店内を見回した。
「だんだん、店の方も落ち着いてきましたか?」
問いかけに対し、クロは淀みなく答える。
「はい。アルバイトを雇いましたので、以前よりもお待たせすることなく料理を提供できるようになりました」
その言葉に、セイゴも深く頷いて注文を重ねた。
「私には、おでんを頼む」
ヴァルが控えめに、しかしどこか嬉しそうに応じる。
「……はい、ただいま」
その様子を横で見ていたエミリアが、怪訝そうにクロを振り返った。
「ちょっと待って。艦長たちがここに来るのって、今日が初めてじゃないの?」
クロは表情を変えず、手元のアナライザー・パッドを静かに操作してデータを確認した。
「いいえ。皆様、既に複数回の来店実績がございます」
ミリィが素っ頓狂な声を上げ、リュウジも身を乗り出した。
「ええっ!? マジかよ!」
驚く二人を余所に、クロは淡々とデータを読み上げていく。
「ハンク艦長は開店初日。リュウジロウ主任は七回来店。セイゴ主任は五回来店。そして、ポックル副長は八回来店されております」
具体的な数字を突きつけられ、店内は一瞬の静寂に包まれた。
ポックル副長は咳払いを一つして、視線を泳がせる。
「……たまたま、通りかかっただけですよ」
ポックスは何も言い返せず、ただ黙って視線を落とした。その様子を見て、リュウジロウが愉快そうに声を上げて笑った。
「ははは! そういうところは、やっぱり親子だな」
その一言で、店内に温かな笑いが広がった。やがて、厨房から食欲をそそる香りが漂い始め、出来立ての料理が運ばれてくる。ハンク艦長は、運ばれてきたチャーハンを豪快に口へ運んだ。
「うまい! おいクロ、お前なら立派な料理人になれるぞ!」
その言葉に、クロは至極淡々と、しかし即座に返した。
「既になっております」
「……確かに、その通りだな」
リュウジが苦笑しながら頷く。
一方、ポックルはおでんを一口運び、目を細めた。
「良い出汁ですね。体に染み渡るようです」
隣でセイゴも静かに頷く。
「ああ、落ち着く味だ」
大人たちの言葉に、給仕をしていたヴァルは、少しだけ照れくさそうに、しかし嬉しそうに表情を和らげた。
次章に続く

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