登場人物紹介
■ セイヤ 風紀を愛する生徒会長。今日も正論で突っ走る。
■ ポックス 冷静沈着な副会長。論理を愛するバルタン星人。
■ クロ 感情を得ようとする推定10億歳のアンドロイド。
■ リュウジ 頼れる幼馴染。仲間思いの生徒会メンバー。
■ ギル 岩石星人の風紀委員。見た目は怖いが五つ子の父親。
■ カズマ 新聞部の特ダネ記者。艦内の噂話ならお任せ。
■ エミリア 生徒会書記。優秀な参謀役でセイヤの彼女。ミリィの姉(双子)
■ ミリィ 明るく元気な医療部志望。リュウジの彼女。エミリアの妹(双子)
■ ヴァル 穏やかな流体生命体。優しさ溢れる癒やし担当。
■ハンク艦長 コスモ・アカデミア号艦長。豪快な性格。
■ポックル副長 コスモ・アカデミア号副長。冷静沈着。ポックスの父親。
■セイゴ コスモ・アカデミア号操舵士。誠実な性格。セイヤの父。
■リュウジロウ コスモ・アカデミア号機関主任。リュウジの父。
前回のあらすじ
第8章「再開」前編
救助隊は巨大な洞窟の入口へと足を踏み入れた。何という事でしょう。
「……暖かい」
エミリアが思わず息を漏らす。
外ではマイナス五十度を超える吹雪が荒れ狂っているというのに、洞窟内には穏やかな暖気が満ちていた。天井には等間隔にLED照明が取り付けられ、柔らかな明かりが岩壁を照らしている。
さらに耳を澄ませば、穏やかなクラシック音楽が洞窟全体に流れていた。ミリィが目を丸くする。
「……音楽?」
ヴァルも静かに周囲を見回した。
「生活してる……。」
その光景は、遭難者が身を寄せる避難所ではなかった。一つの『家』だった。
さらに奥へ進む。最初に現れたのは広々としたリビングだった。
大型テーブル。ふかふかのソファ。本棚。照明。壁には洞窟全体の見取り図まで貼られている。
「…………」
誰も声が出ない。さらに奥へ。今度はキッチンだった。大型調理台。冷蔵ユニット。保存庫。調理器具。整然と並べられた食器。
「クロの仕事ね……」
エミリアは苦笑した。さらに進む。左右には個室が並ぶ。
【セイヤ】
【リュウジ】
【ポックス】
【ギル】
【クロ】
【カズマ】
入口にはそれぞれ名前まで付けられていた。さらにその奥。
【研究室】
【写真現像室】
【トレーニングルーム】
部屋を見つけるたびに、救助隊員たちの表情は驚きから呆れへと変わっていく。
「ここまで作る……?」
ミリィが思わず呟いた。
さらに進む。湯気が立ち込める。
「温泉……?」
天然温泉。
脱衣所。
シャワー。
そして隣には、サウナ。
さらに水風呂まで完成していた。
セイゴは額を押さえた。
「……遭難者とは思えんな。」
エミリアも乾いた笑みを浮かべる。
「ここまで来ると尊敬するしかないわね……。」
その時だった。奥から聞こえてきた。
ザザーン……
波の音だった。
「え?」
全員が顔を見合わせる。
洞窟のさらに奥。そこだけ昼間のように明るかった。
人工太陽灯。
白い砂浜。
南国風のヤシの木。
そして青く輝く人工の海。
「…………」
全員が固まる。そのビーチチェアには、海パン姿のセイヤ。サングラス姿のリュウジ。ジュースを飲むポックス。屋台で焼きそばを焼いていた。かき氷もあるらしい。筋トレ中のギル。写真を撮るカズマ。六人が、これ以上ないほどくつろいでいた。
最初に気付いたのはカズマだった。
「あれ?」
レンズ越しに救助隊を発見する。
「みんなー!」
大きく手を振る。
「お客さん来たー!」
その声に全員が振り返る。
「エミリア?」
「ミリィ!」
「ヴァル!」
まるで休日に遊びに来た友人を迎えるような笑顔だった。
一方。救助隊は完全に停止していた。
ヴァルが真っ先に走り出す。
「ポックス!!」
勢いよく抱き付く。「よかった……。」
涙が止まらない。ポックスは少し驚きながらも優しく抱き返した。
「心配をお掛けしました。」
ヴァルは何度も頷きながら涙を拭った。
一方。
「リュウジーーーー!!」
ミリィが全力疾走。思い切り抱き付いた。
「生きてたぁ!」
リュウジも笑う。
「悪い悪い。」
しかし。数秒後。ミリィの目がゆっくり下へ向く。
「…………」
海パン。
「……で?」
「なんで海パンなの?」
ゴツン!!
「いてぇ!」
「心配してたんだから!」
「ご、ごめん!」
ビーチに笑いが広がる。
最後に。エミリアがゆっくり歩いてきた。セイヤの前で止まる。二人はしばらく無言だった。肩が震えている。怒っているのか。泣いているのか。自分でも分からなかった。ようやく口を開く。
「……説明して。」
セイヤは悪びれる様子もなく頷いた。
「もちろんだ。」
そこから始まったのは遭難報告というより、秘密基地建設報告だった。
「まず洞窟を見つけた。」
「温泉があった。」
「地熱発電を作った。」
「風力発電も完成した。」
「農園を作った。」
「魚も見つけた。」
「養殖も始める予定だ。」
「サウナも完成した。」
「最後にビーチだ。」
楽しそうに説明するセイヤ。エミリアは途中まで真面目に聞いていた。
リュウジが察して、「セイヤ、その辺でいいんじゃないか…」と止めに入った矢先、クロが、「BGMは時間帯で変化します。」と補足し、ポックスまで、「現在、ビーチ環境の改善案を検討しています。」と言い出したところで、エミリアもとうとう肩を落としてしまった。
「……もう。」
怒る気も失せた。その後、リュウジが基地を案内する。
「ここがリビング!」
「クロのキッチン!」
「個室!」
「研究室!」
「暗室!」
「ジム!」
「温泉!」
「サウナ!」
「水風呂!」
一通り見終えたセイゴは腕を組んだ。
「見事だ。」
「救助を待つだけではなく、自分たちで生きる環境を築いた。」
「父として誇りに思う。」
セイヤは静かに敬礼した。
「ありがとうございます。」
エミリアが微笑む。
「さあ、帰りましょう。」
すると。
「え?」
リュウジが首を傾げる。
「もう少し完成させたいんだけど。」
「養殖設備がまだです。」
ポックス。
「ビーチも改良できます。」クロ。
「サウナも改善できます。」ギル。
「記事もまだ途中だ。」カズマ。
救助隊全員が固まる。
「…………」
エミリアは頭を抱えた。
「あなた達……本当に遭難してたのよね?」
セイヤは真顔で答える。
「もちろん。」
「だからこそ、本気で生き残った。」
しばらく沈黙。そしてエミリアは苦笑した。
「……そういうところが好きなんだけど。」
次の瞬間。セイヤは何も言わず、そっとエミリアを抱き寄せた。ぎゅっ。
「えっ……!?」
エミリアの顔が一瞬で真っ赤になる。
「ちょ、ちょっと……セイヤ!」
周囲は完全に静止した。数秒後。
「ぶはははは!」
リュウジが吹き出した。ミリィも笑う。ヴァルは涙を拭きながら微笑む。ギルも静かに口元を緩めた。カズマは慌ててカメラを構える。
「この一枚、永久保存版だ!」
その中でただ一人。ポックスだけは背筋を伸ばし、セイヤへ向かってビシッと敬礼した。
「お見事です、会長。」
その一言で、洞窟中が今日一番の笑い声に包まれた。
外では相変わらず吹雪が荒れ狂っている。しかし、この洞窟だけは違った。仲間がいて。笑顔があって。帰る場所がある。極寒の惑星フロストガルド。
その片隅に築かれた小さな秘密基地は、誰にとっても世界で一番温かな場所になっていた。
(第9章へ続く)


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