宇宙生徒会長セイヤ 第70話①前編「セイヤ遭難する」

2.宇宙生徒会長セイヤ

登場人物紹介
■ セイヤ  風紀を愛する生徒会長。今日も正論で突っ走る。
■ ポックス 冷静沈着な副会長。論理を愛するバルタン星人。
■ クロ   感情を得ようとする推定10億歳のアンドロイド。
■ リュウジ 頼れる幼馴染。仲間思いの生徒会メンバー。
■ ギル   岩石星人の風紀委員。見た目は怖いが五つ子の父親。
■ カズマ  新聞部の特ダネ記者。艦内の噂話ならお任せ。

第1章「遭難」

 見渡す限り氷と雪に閉ざされた、静寂の星――惑星フロストガルド。母船であるコスモ・アカデミア号からシャトルを飛ばして約二時間、一行の眼前にその白銀の姿が現れた。 地表の平均気温はマイナス八十度。生命を拒絶するような極寒の地だが、その地下深くには、銀河でも希少な鉱物資源が眠っているという。今回の彼らに課せられた任務は、その未知なる資源の調査、および採取であった。

 操縦席では、クロが淡々と計器の数値を読み取っていた。
「目的地まで、残り二十五分です」
その言葉に、ポックスも手元のアナライザー・パッドへ視線を落としたまま頷く。
「予定通り到着できそうですね」
一方、リュウジは退屈そうに窓の外を眺めていた。
「しかし、見事になんもねぇな」
視界の先に広がるのは、底知れぬ闇を湛えた宇宙空間。
その遥か彼方に、白銀に輝くフロストガルドがぽつんと浮かんでいた。
岩石星人のギルが、太い腕を組みながら低く唸った。
「……寒そうだ」
その隣では、新聞部のカズマが窓越しにシャッターを切っている。カシャ、という乾いた音が機内に響いた。
「雪の惑星って映えるよな。いい絵が撮れそうだ」
浮き足立つメンバーを嗜めるように、セイヤが静かに口を開いた。
「任務は安全第一だ。鉱物採取を終えたら、速やかに帰還するぞ」
「ポックス、惑星フロストガルドについての情報を共有してくれ」
セイヤの言葉に、ポックスは手元の端末を操作しながら淡々と応じた。
「フロストガルドは銀河外縁部に位置する極寒惑星です。平均気温はマイナス八十度。現在のところ、定住者はおろか原住生物の存在も確認されていません。自転周期は三十六時間、公転周期は六百十二日。地表の九割以上が分厚い氷河と永久凍土に覆われています」
そこまで一気に述べると、ポックスは一度言葉を切って眼鏡のブリッジを押し上げた。
「もっとも、ただの凍てついた石ころというわけではありません。地下には高性能冷却材やエネルギー制御素材の原料となる『フロスト鉱石』が大量に埋蔵されていると推定されています。もし採掘に成功すれば、我々の艦艇の冷却システムや高出力機関を劇的に進化させることができるでしょう。資源価値としては極めて高い部類に入ります」
しかし、と彼は付け加える。その声には冷静な警告が混じっていた。
「過酷な極寒環境と絶え間ない氷嵐のせいで、採掘コストは天文学的な数字に跳ね上がります。それが、今日まで本格的な開発が見送られてきた理由です」
 
 その時だった。突如として、鋭い電子音が機内に鳴り響いた。
「――ッ!」
全員の身体がこわばり、弾かれたように顔を上げる。クロが即座にコンソールへ指を走らせ、計器の数値を読み取った。
「前方に磁気嵐を確認。大規模なものです」
その報告に、ポックスの表情が険しく歪む。
「規模は?」
「予測半径、八百キロ……」
報告を聞いたリュウジが、思わず吹き出した。
「でけぇな、おい。冗談だろ?」
セイヤが一歩前へ踏み出し、身を乗り出す。
「回避は可能か?」
クロは表情一つ変えず、淡々と事実を告げた。
「困難です。磁気嵐の拡大速度が、本機の回避能力を上回っています」
数秒の沈黙が流れた。セイヤが鋭く決断を下す。
「最短距離で突破可能なコースをとれ! それとリュウジ、機関室へ行ってパワーを絞り出せ」
「だよな」
リュウジが不敵に笑ってブリッジを後にする。クロは淡々と応じた。
「了解」シャトルは速度を上げ、荒れ狂う磁気嵐の渦へと突入した。
ゴゴゴゴゴ……と、地響きのような重低音が機体を震わせ始める。
機体が小刻みに震え始める。窓の外では、青白い放電現象が無数に走っていた。
「――来るぞ!」
セイヤの叫びとほぼ同時、凄まじい衝撃がシャトルを襲った。ドンッ!! 「うおっ!?」
座席に叩きつけられたカズマが、必死にコンソールを掴む。
「姿勢制御、低下」
クロが淡々と、しかし緊迫感のある声で報告する。
「左へ二度修正!」
ポックスの鋭い指示が飛ぶ。
「修正」
クロの操作に従い、シャトルが大きく左へ傾いた。
「……揺れる」
巨体のギルが、座席の肘掛けをミシリと鳴らしながら呟く。
「写真どころじゃないな、これ……っ!」
カズマはカメラを死守しながら、必死に座席にしがみついた。
さらなる衝撃が機体を襲った。
「ガガガガガガッ!!」
金属が悲鳴を上げるような凄まじい振動と共に、真っ赤な警告灯がブリッジで激しく点滅し、けたたましい警報音が鳴り響く。
「センサー類、一部機能停止!」
クロが冷静ながらも、緊迫した声を上げた。
「エンジン出力、九十五パーセントを維持!」
機関室からリュウジの叫び声が通信機越しに響く。
「そのまま維持してください!」
ポックスが計器に張り付いたまま、鋭く指示を飛ばした。
「みんな落ち着け! もう少しで突破できる!」
セイヤの鼓舞するような叫びが響く。シャトルは激しく揺れながらも、荒れ狂う磁気嵐の中を懸命に突き進んでいった。
それから数分後。不意に、機体を翻弄していた暴力的な揺れが収まった。 「磁気嵐、突破」
クロが淡々と、しかしどこか安堵を感じさせる声で告げた。
静寂が訪れた。張り詰めていた空気が一気に抜け、機内に安堵の吐息が漏れる。
「助かったぁ……」
リュウジが座席に深く背中を預け、力なく呟いた。
「……被害状況を確認しろ」
セイヤが真っ先に冷静さを取り戻し、鋭く指示を出す。
「センサー類、全て復旧しています」
クロの報告に続き、機関室のリュウジも手元のモニターを叩いた。
「こっちも大丈夫だ。通常エンジン、ワープコア共に正常。問題ねぇよ」
しかし、ポックスだけは安堵の輪に加わらず、険しい表情で計器を睨み続けていた。

次章に続く

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