前回のあらすじ
第32期生徒会総選挙が公示され、セイヤたちは引退の日を迎える。これまでの日々を懐かしみ、絆を再確認する一同。落選したネオはクロの店での採用が決まり、新役員のリアたちも決意を胸に挨拶に訪れる。後輩へ未来を託したセイヤは、最後に誰もいない生徒会室へ敬礼を送り、仲間たちの待つ廊下へと歩み出した。
登場人物紹介
■ セイヤ 風紀を愛する前生徒会長。今日も正論で突っ走る。
■ ポックス 冷静沈着な前副会長。論理を愛するバルタン星人。
■ クロ 感情を得ようとする推定10億歳のアンドロイド。
■ リュウジ 頼れる幼馴染。仲間思いの前生徒会メンバー。
■ ギル 岩石星人の前風紀委員。見た目は怖いが五つ子の父親。
■ カズマ 新聞部の特ダネ記者。艦内の噂話ならお任せ。
■ エミリア 前生徒会書記。優秀な参謀役でセイヤの彼女。ミリィの姉(双子)
■ ミリィ 明るく元気な医療部志望。リュウジの彼女。エミリアの妹(双子)
■ ヴァル 穏やかな流体生命体。優しさ溢れる癒やし担当。
■ミドリ セイヤの母。医療部勤務の優しく包容力あふれる看護師。
■カナ セイヤの妹。明るく優しい兄思いのしっかり者。
■ハナエ リュウジの母。医療部勤務の明るく頼れるムードメーカー。
登場人物紹介(新キャラ)
■レオン・アークライト少尉(セイヤ担当教官)
冷静沈着な操舵士。新人を温かく導く頼れる教官。
■バルド・グレイン曹長(リュウジ担当教官)
豪快な機関部の鬼教官。情に厚い頼れるベテラン。
■アイリス・フェルナ少尉(ポックス担当教官)
穏やかな科学士官。知性と優しさで後輩を導く研究者。
■ユリア中尉
冷静で的確な指揮官。エミリアを導く頼れる女性士官。
■ダグラス隊長
寡黙な保安隊長。実戦経験豊富な歴戦のベテラン。
■リーフ博士
植物研究の第一人者。穏やかで自然を愛する科学者。
■ヘンリー・クロフォード主任科学士官
飄々とした天才科学者。クロの成長を温かく見守る恩師。
■サラ・ウィンザー中尉
優秀な女性情報士官。鋭い観察眼でカズマを導く教育担当。
第1章「それぞれの新しい一日」
三年生となって迎える、最初の朝。
巨大宇宙船コスモ・アカデミア号の艦内には、人工太陽の柔らかな光が差し込み、いつもと変わらぬ穏やかな時間が流れていた。しかし、セイヤたちにとって、今日という日は単なる一日の始まりではない。
教室で教科書を広げる日々は昨日で終わりを告げた。
今日からの一年間、彼らは艦内の各部署に配属され、プロの現場で「実務研修」を受けることになる。この過酷な試練を乗り越え、実力を認められて初めて、コスモ・アカデミアの卒業証書を手にすることができるのだ。
期待と緊張が入り混じる胸の鼓動を感じながら、セイヤは糊のきいた新しい制服に袖を通した。鏡の前で襟元を正し、決意を新たにして自室の扉を開ける。台所では、母のミドリが手際よく朝食の準備を進めていた。
香ばしいパンの香りが鼻をくすぐる。
「おはよう、セイヤ。昨日はちゃんと眠れた?」
ミドリが優しく微笑みながら問いかける。
「……いや、正直あんまり寝付けなかったよ」
セイヤが苦笑いしながら答えると、ミドリは「まあ、初日だものね」と頷いた。
「そういえば、今日からエミリアさんの妹さんが医療部にくるんでしょ?楽しみだわ」
「えっ、ミリィは母さんの下についてもらうのか?」
「そうなの。私の班に配属されるから、ハナエも一緒よ」
「だったらミリィも安心だな」
セイヤが焼きたてのパンを口に運んでいると、パジャマ姿の妹、カナが眠そうに目をこすりながらリビングに現れた。
「おはよー。お兄ちゃん、新しい制服似合ってるじゃん」
「当たり前だ」
セイヤが短く返すと、カナはニヤリと意地悪そうに笑った。
「あ、そういえば聞いたよ。今度の生徒会長のリアさん、お兄ちゃんと違って落ち着いてるから、すごく安心感があるって評判だよ」
「……彼女なら適任だ。心配ない」
セイヤが真面目な顔で頷くと、カナは呆れたように肩をすくめた。
「だから、そう言ってるじゃん。お兄ちゃんより安心だって」
「慣れるまでは、周りがしっかり見守ってやる必要があるからな」
「はぁ……何様のつもりだよ。全然話が噛み合ってないんだけど」
カナの溜息を背中で聞き流しながら、セイヤは手早く朝食を済ませた。
洗面所で鏡に向かい、一分の隙もないよう身だしなみを整えると、決意を込めて玄関の扉を開けた。玄関を出て数歩、背後から聞き慣れた足音が近づき、肩を叩かれた。
「よっ、セイヤ。昨日はちゃんと眠れたか?」
振り返ると、そこには同じく真新しい制服に身を包んだリュウジが、不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「リュウジか、おはよう。……正直、昨日は少し寝付けなかったな。だが、体調に問題はない」
「ははっ、相変わらず気合が入ってんな。お前らしいよ」
リュウジは愉快そうに笑い、セイヤの隣に並んで歩き出した。
その時、艦内全域にスピーカーを通じて凛とした放送が響き渡った。
『三年生各位。本日より実務研修を開始します。各自、指定された所属部署へ速やかに集合してください』
その声は、彼らの学生生活の終わりと、プロとしての第一歩を告げる合図だった。二人は顔を見合わせ、力強く頷き合うと、それぞれの新しい持ち場へと歩き出した。
【指揮・操舵部門】
格納庫。巨大なハッチの向こうには、整備の行き届いたシャトルが整然と並び、発着デッキ特有のオイルと熱気の混じった匂いが漂っている。操縦士用の真新しい制服に身を包んだセイヤは、目の前の人物に対し、指先まで神経の行き届いた鋭い敬礼を繰り出した。
「本日より配属されました、セイヤです。よろしくお願いします!」
目の前に立つのは、レオン・アークライト少尉。彫りの深い顔立ちに、歴戦の操縦士特有の鋭い眼光を宿した男だ。
「私はレオンだ。今日から君の教育担当を務める」
レオンはセイヤの目を真っ直ぐに見据え、低く重みのある声で続けた。
「いいか。操縦技術ならいくらでも教えてやる。だが、一つだけ覚えておけ。操縦桿を握る者に必要な『責任感』だけは、教えられて身につくものじゃない。自分で掴み取れ」
「了解しました!」
セイヤの力強い返答が、高い天井の格納庫に響き渡った。
――そのすぐ隣。同じ指揮部門では、エミリアもまた別の班へと配属されていた。
「私はユリア中尉。あなたの指導官よ」
穏やかな、しかし芯の強さを感じさせる微笑みを浮かべた女性士官が、エミリアを迎え入れる。
「今日から艦橋(ブリッジ)勤務を担当してもらうわ。よろしくね、エミリアさん」
「よろしくお願いいたします、ユリア中尉」
エミリアが凛とした所作で敬礼を返すと、ユリアは満足そうに頷いた。
「あなたの成績は聞いているわ。特に戦略論に関しては、教官たちの間でも評価が高いそうね。期待しているわよ」
「はい。全力を尽くします」
エミリアの瞳には、静かな、しかし確かな闘志が宿っていた。
【機関部】
巨大なエーテル結晶炉が青白い光を放ち、重低音の唸りを上げる区画。熱気とオイルの匂いが立ち込めるその中心で、一人の大男が待ち構えていた。
「お前がリュウジか!」
鼓膜を震わせるような豪快な声が響く。声の主は、バルド・グレイン曹長。岩のように頑強な体躯をした、機関部の鬼教官だ。
「機関部へようこそ!今日から俺が直々に鍛え上げてやる。……フン、いい面構えだ。お前の親父さんには、昔ずいぶん絞られたもんだぜ」
バルドは懐かしむように目を細めた後、すぐに鋭い視線をリュウジに向けた。
「よろしくお願いします!」
リュウジが気圧されまいと声を張り上げると、バルドはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「いい返事だ。……よし、まずはその工具箱を持て!」
「えっ、いきなり雑用ですか!?」
思わず漏れたリュウジの驚き声に、周囲で作業していた機関部員たちからドッと笑いが沸き起こった。
「ははは!新入り、機関部の基本は足腰からだぞ!」
先輩たちの冷やかしを受けながら、リュウジは苦笑いしつつも、ずっしりと重い工具箱を力強く持ち上げた。
【保安部】
訓練場には、隊員たちの鋭い掛け声と、模擬戦の激しい打撃音が響き渡っていた。岩石星人であるギルは、その屈強な体をさらに引き締めるようにして、直立不動の姿勢で待機していた。目の前に立つのは、数々の修羅場を潜り抜けてきたであろう歴戦の勇士、ダグラス隊長だ。その鋭い眼光が、品定めするようにギルを射抜く。
「ギルだな」
ダグラスの低く、地響きのような声が響く。
「君のこれまでの活躍は聞いている。学生ながら実戦経験が豊富だそうだな。期待しているぞ」
余計な言葉を削ぎ落とした、プロとしての信頼。ギルは無言で、しかし力強く、岩のような腕を上げて鋭い敬礼を返した。
「了解」
その短い一言には、保安隊の一員として艦を守るという、揺るぎない覚悟が込められていた。
【科学部】
広大な研究区画には、無数のホログラムディスプレイが浮かび、静謐な知性が漂っていた。バルタン星人のポックスは、目の前に立つ穏やかな笑みを浮かべた女性士官、アイリス・フェルナ少尉と向き合う。
「ポックス君ですね。あなたの論理的なレポートは拝見しました。一緒に研究できるのを楽しみにしています」
アイリスが差し出した手を、ポックスは冷静に、しかし敬意を込めて握り返した。
「光栄です、アイリス少尉。私の論理が貴殿の知見とどう共鳴するか、非常に興味深い。よろしくお願いします」
――少し離れた分析室では、柔らかな緑の光が溢れていた。流体生命体のヴァルは、温和な雰囲気をまとった老科学者、リーフ博士と対面していた。
「私がリーフだ。ここでは主に植物系生命体の生態と、その可能性について研究している」
博士の穏やかな声に、ヴァルは心地よさを感じて体を揺らした。
「よろしくお願いします、博士。生命の神秘について、多くのことを学びたいです」
「ああ、こちらこそ。君のような感性豊かな助手を待っていたよ」
博士は満足そうに目を細め、ヴァルを優しく迎え入れた。
一方、その隣の研究棟。クロは、一人の男性と向き合っていた。白衣のポケットには数本のペンと工具が無造作に突っ込まれ、片手には使い込まれたコーヒーカップ。その男――ヘンリー・クロフォード主任科学士官は、乱雑なデスクの上以上に捉えどころのない、飄々とした空気をまとっていた。
「私がヘンリー・クロフォードだ。専門はAI工学とロボット工学。この区画の責任者を務めている」
クロは無機質な動作で、しかし正確に敬礼を返した。
「アンドロイド、クロです。本日より実務研修に配属されました。よろしくお願いいたします」
クロフォードは少しだけ目を丸くし、まじまじとクロを見つめた。
「……ずいぶん礼儀正しいんだな」
「はい。何か失礼がありましたでしょうか」
クロが問い返すと、クロフォードは愉快そうに声を立てて笑い、首を振った。
「いや、むしろ人間臭くていい。気に入ったよ」
クロは一瞬だけ演算処理を行い、答えを導き出した。
「……ありがとうございます」
その返答に、クロフォードは満足げに頷く。
「君が優秀なAIだということは聞き及んでいる。だが今日からは、ただの『個体』として扱うつもりはない」
彼はコーヒーを一口啜り、クロの目を真っ直ぐに見据えた。
「一人の科学士官として育てる。失敗を恐れるな。分からないことは何でも聞け」
「了解しました」
クロが静かに応じると、クロフォードは研究室の奥にある年季の入ったコーヒーメーカーを指差した。
「よし。じゃあまずは、美味いコーヒーでも淹れてくれ」
クロはわずかに首を傾げた。
「……研究業務ではなく、でしょうか」
「研究は、美味いコーヒーを飲んでから始めるもんだ」
クロは一秒ほど沈黙して最適解を検索した後、真面目な表情で答えた。
「承知しました。抽出を開始します」
その様子を見たクロフォードは、思わず吹き出した。
「はははっ!いいねぇ、君。思っていた以上に面白いじゃないか」
「……今のは、褒め言葉と判断してよろしいでしょうか」
「ああ、その判断で合ってるよ」
無機質な研究室に、穏やかな笑い声が響き渡った。
【医療部】
医療センター。清潔な消毒液の匂いが漂う診察室に、少し丈の長い白衣に身を包んだミリィが足を踏み入れた。緊張で背筋を伸ばす彼女に、明るい声が掛けられる。
「あなたが新人さん?」
振り返ると、そこには快活な笑みを浮かべた女性が立っていた。
「はい!本日より配属されました、ミリィです。よろしくお願いします!」
元気よく答えるミリィに、女性は満足そうに頷いた。
「いいわね、元気があってよろしい!私はサエキ・ハナエ。リュウジがいつもお世話になっているわね」
ハナエが茶目っ気たっぷりにウインクすると、その隣にいた穏やかな雰囲気の女性も微笑んだ。
「そして、こっちがカミヤ・ミドリよ」
「セイヤがいつもご迷惑をかけてごめんなさいね、ミリィさん」
二人の母――リュウジの母であるハナエと、セイヤの母であるミドリからの挨拶に、ミリィは慌てて深々とお辞儀をした。
「いえ、そんなことないです!お二人にはいつも助けられていますし、楽しいことをたくさん考えてくれるので、みんな喜んでいるんですよ」
ミリィの真っ直ぐな言葉に、ハナエとミドリは顔を見合わせ、嬉しそうに目を細めた。
「ふふ、いい子ね。……さて、お喋りはここまで。ミリィさん、まずは基本中の基本、患者さんの名前を覚えるところから始めましょうか」
「はい!」
ミリィは力強く返事をし、憧れの医療従事者としての第一歩を踏み出した。
【情報部】
情報管理室。足を踏み入れた瞬間、カズマは息を呑んだ。壁一面を埋め尽くす巨大なマルチモニターには、艦内外の膨大なデータがリアルタイムで流れ、無数のインジケーターが明滅している。
「すげぇ……。これが、本物の情報部か……」
新聞部として学内を駆け回っていた頃とは比較にならない情報の密度と熱量に、カズマの目は少年のように輝いた。
「驚くのはそこまでにしておきなさい、新人君」
モニターの光を背に受けて、サラ・ウィンザー中尉が快活に笑った。
「ここが艦の心臓部の一つ、情報部よ。あなたが今までやってきた新聞部の『特ダネ探し』とは、情報の重みが違うわ」
サラは手元のコンソールを鮮やかに操作し、一つのウィンドウをカズマの目の前に展開した。
「情報は時に、実弾以上の武器にもなる。扱い一つで艦の運命を左右することもあるわ。責任を持って扱うこと。いいわね?」
その言葉の重みに、カズマは表情を引き締め、力強く頷いた。
「了解です、サラ中尉!この武器、使いこなしてみせます!」
――昼休み。
活気に満ちた艦内食堂には、午前中の研修を終えた実習生たちが続々と集まっていた。セイヤたちが自然といつものテーブルに顔を揃えると、張り詰めていた空気がわずかに和らぐ。
「みんな、どう?新しい職場は」
ミリィが身を乗り出し、興味津々といった様子で問いかけた。
「……聞くなよ。俺なんて、挨拶もそこそこに重い工具箱を担がされて、ひたすら運搬だ」
リュウジが肩を回しながら苦笑する。その表情には疲れも見えたが、どこか充実感も漂っていた。
「ふふっ、大変そう。私はね、リュウジとセイヤのお母さんに会ったよ」
ミリィの言葉に、リュウジの顔が目に見えて引きつった。
「げっ、うちのオフクロか……?あいつ、なんか変なこと言わなかったか?」
心配そうに顔を覗き込むリュウジに、ミリィは花が咲くような笑顔で答える。
「ううん、全然!『いつも息子がお世話になってます』って、二人ともすごく優しくしてくれたよ」
「……そうかよ。ったく、余計なことを……」
リュウジは気恥ずかしそうに視線を逸らし、小さくため息をついた。
「いいかミリィ、あんまりうちの親とは深く関わるなよ。ろくなことにならないからな……」
ぶつぶつとぼやくリュウジの様子に、テーブルには穏やかな笑いが広がった。
「研究室の方は、とても静かで落ち着いた雰囲気でしたよ。クロの方はどうだった?」
ヴァルが柔らかな動きで首を傾げ、隣に座るクロに問いかけた。クロは数秒の沈黙の後、無機質な瞳をわずかに動かした。
「……ヘンリー・クロフォード主任は、少々、変わった方のようです」
「へぇ、どんなふうに?」
興味深げに身を乗り出すヴァルに対し、クロは演算処理を繰り返しているのか、珍しく言葉に詰まった様子を見せた。
「……私の語彙データの中から、彼を形容するのに適切な言葉が見つかりません」
その真面目すぎる回答に、ヴァルは思わず声を漏らして笑った。
「ふふふ、それはますます興味深いわね。今度、私もお話ししてみたいな」
ヴァルが穏やかな笑顔でそう言うと、セイヤも微笑んだ。
「まあ、みんなそれぞれ自分の場所で頑張ろう」
セイヤの言葉に、全員が力強く頷く。新しい環境への不安を抱えつつも、仲間たちの存在が確かな勇気を与えてくれていた。
――その時だった。食堂の喧騒を切り裂くように、鋭い電子音が鳴り響いた。突如、天井のスピーカーから耳を刺すような電子音が鳴り響いた。
「ビーッ!ビーッ!ビーッ!」
和やかな談笑に包まれていた食堂は、一瞬にして静まり返る。頭上では赤い警告灯が激しく回転し、実習生たちの顔を不気味な赤色に染め上げた。間髪入れずに、ノイズ混じりの緊迫したオペレーターの声が響く。
『緊急入電!緊急入電!民間貨物船シルバー・マーチ号より救難信号を受信!』
『状況、同船の機関部冷却システムに致命的な異常発生。オーバーヒートにより貨物室の温度が急上昇中。エンジン出力は現在二〇パーセントまで低下、航行不能の恐れあり!』
『救助チームに選抜された実習生および各担当教官は、直ちに第一ブリーフィングルームへ集合せよ。繰り返す――』
放送が鳴り止むよりも早く、食堂の自動ドアが勢いよく左右に開かれた。そこに立っていたのは、鋭い眼光を湛えたレオン少尉だ。その視線が、迷うことなくセイヤを射抜く。
「セイヤ、来い。時間がないぞ」
「了解!」
セイヤは弾かれたように立ち上がった。椅子が床を叩く音さえ、今の彼には遠く感じられた。時を同じくして、反対側の入り口からは地響きのような怒号が響き渡る。
「リュウジ!いつまで座ってやがる。のんびり飯を食う時間は終わりだ。初仕事だぞ、ついて来い!」
仁王立ちで叫ぶバルド曹長の姿に、リュウジは不敵な笑みを浮かべて応えた。
「……へっ、望むところだ!待たせんなよ、親父さん!」
リュウジは食べかけの食器を片付ける間も惜しみ、弾丸のような速さで駆け出した。
ポックスの隣には、いつの間にかアイリス少尉が音もなく立っていた。彼女は穏やかな微笑みを絶やさないまま、しかしその瞳には科学士官としての鋭い光を宿して彼を見つめる。
「ポックス君、行きましょう。教科書に書かれた数式だけでは解けない『実戦』という名の難問が、私たちを待っています」
「……未知の変数こそ、探求の醍醐味。論理的な帰結ですね。承知しました」
ポックスは冷静に眼鏡のブリッジを押し上げると、迷いのない足取りで彼女の後に続いた。駆け出そうとする三人の背中に、残された仲間たちからの激励が飛ぶ。
「いってらっしゃい、三人とも!信じてるわ」
エミリアが祈るような微笑みを浮かべ、凛とした声で見送れば、その隣でミリィはちぎれんばかりに大きく手を振った。
「無茶しちゃダメだよ!絶対に、怪我しないで帰ってきてね!」
ギルは岩のように頑強な拳を己の胸に当て、地響きのような重みのある声で告げる。
「……武運を」
カズマは愛用のカメラを構える仕草をして、不敵にニヤリと笑った。
「最高の初陣にしてこいよ!無事に帰ってきたら、独占取材でたっぷり喋らせてもらうからな!」
自動ドアの向こうへ消える寸前、セイヤはふと足を止めた。振り返ったその瞳には、かつて学園を導いた生徒会長としての気高い責任感と、今まさに荒波へ飛び込もうとする一人の士官候補生としての揺るぎない覚悟が、静かな炎となって宿っている。
彼はいつものように、そしてこれまでで最も鋭く、指先まで神経の行き届いた完璧な敬礼を仲間たちへ送った。
「了解!――行ってくる!」
短く放たれた言葉は、決意の礫となって食堂に残る者たちの胸に届いた。
セイヤ、リュウジ、ポックスの三人は、迷いのない足取りで先輩士官たちの背中を追い、未知の危機が渦巻く果てしない宇宙(そら)へと駆け出していった。
(第2章へ続く)



コメント