宇宙生徒会長セイヤ 第65話「クロ、アップデートされる」⑤

2.宇宙生徒会長セイヤ

第65話
第5章「恋愛感情」

その夜。クロの個室には、アナライザー・パッドの淡い光だけが浮かんでいた。検索履歴が高速で流れていく。

【恋愛感情とは】
【特定人物を見ると演算負荷が上昇する】
【胸部温度上昇 原因】
【好きな人がいる時の症状】

クロは静かにその情報を読み続けていた。
「視線固定」
「思考優先順位の偏り」
「対象人物との接触欲求」

クロは小さく呟く。
「……複数該当」
胸部コアが熱を持つ。
クロは静かに目を閉じた。

翌日、クロは以前よりさらに周囲を観察するようになっていた。
教室でエミリアがセイヤへ呆れた声を向けている。
「だから風紀点検表を食堂に持ち込まないで」
セイヤは真顔だった。
「昼食時間の秩序維持は重要だ」
エミリアは深いため息をつく。
「なんでご飯食べながら風紀チェックしてるのよ……」
クロはその様子を見ていた。エミリアは怒っているようで、どこか優しい。セイヤも当然のようにその隣にいる。その光景を見た時、クロの内部演算がわずかに乱れた。
「……綺麗です」
クロは小さく呟く。
だがその感情が何なのかは、まだ分からなかった。

放課後の展望デッキでヴァルが窓の外の宇宙を静かに見つめていた。クロもその隣へ立つ。
しばらく二人は何も話さない。静かな時間だけが流れていき、やがてヴァルが小さく言った。
「クロ、最近少し変わった」
クロは静かに頷く。
「自覚はあります」
ヴァルは優しく微笑む。
「前より、少し楽しそう」
クロは宇宙を見ながら呟いた。
「以前は、この景色を理解できませんでした」
ヴァルが聞き返す。
「今は?」
クロは少し考える。
「……少しだけ、綺麗だと思います」
ヴァルは嬉しそうに微笑んだ。その瞬間。クロの胸部コアが再び熱を持つ。
「胸部温度上昇……」
ヴァルが不思議そうに首を傾げる。
「大丈夫?」
クロはすぐに答えられなかった。

翌日の昼休みの食堂。珍しくクロとミリィだけが先に席へ着いていた。
クロはまだ、“笑う”という感情を完全に制御できていなかった。
ふと内部記録が再生される。
『眠い時は寝て、腹が減ったら食え』クロの肩が震える。
「……ふっ」
ミリィが顔を上げる。
「ん?」
クロは口元を押さえた。
「……あは……」
次の瞬間。
「あはははは……!」
突然笑い始めたクロに、周囲の生徒達がざわつく。
「え、クロ?」
「どうしたんだ?」
中には少し引いている生徒もいた。だが、ミリィだけは机を叩いて爆笑した。
「なにそれー!!」
クロは笑いながら困惑していた。
「わ、私は現在、過去記録の再解析を――」
「もっと笑ってよ!」
ミリィは涙目になりながら笑っている。
「クロ、笑うとめちゃくちゃ面白い!」
クロは少しずつ笑いを止めながら聞いた。
「……変ではないのですか?」
その言葉に、ミリィはきょとんとする。
「え?」
クロは少し不安そうだった。
「周囲の視線変化を確認しました」
「私は異常行動を――」
ミリィは即座に首を振る。
「全然!」
そして、いつものように太陽みたいに笑った。
「クロが楽しそうだと、私も楽しいもん!」
その瞬間だった。
【情動反応急上昇】
【内部演算異常】
【優先思考固定化】
クロの胸部コアが一気に熱を持ち、クロは言葉を失った。
ミリィは不思議そうに首を傾げる。
「クロ?」
クロはゆっくり胸部へ手を当てる。
「……温かい」
ミリィは笑う。
「そりゃ笑ったら楽しくなるよ!」
その時だった。
「ミリィ〜!」
リュウジが食堂へ入ってくる。
ミリィの顔がぱっと明るくなった。
「リュウジ!」
自然にリュウジの腕を引っ張るミリィ。
「クロが急に笑い出したんだよ!」
リュウジが吹き出す。
「マジかよ!」
二人は自然に笑い合っていた。
その光景を見た瞬間、クロの胸部コアが再び強く軋む。
【高負荷警告】
【未知の情動反応】
【内部出力不安定】
クロは小さく胸を押さえた。
「……?」
少し離れた席でポックスは静かにアナライザー・パッドを見ていた。
高速で流れる情動ログ。その視線がゆっくりクロへ向く。
「やはり……」

その夜。クロは自室へ戻っていた。
アナライザー・パッドへ新たな検索履歴が増えていく。
【好きな人に恋人がいる場合】
【恋愛感情 消し方】
【胸が苦しい 原因】
クロは静かに呟いた。
「私は、理解しています」
リュウジとミリィは恋人同士。
それは周囲の誰もが知っている事実だった。クロも当然知っている。だからこそ、この感情は不合理だった。
「……なのに」
胸部コアが熱を持つ。
ミリィの笑顔が何度も記憶再生される。
「クロが楽しそうだと、私も楽しいもん!」
クロは静かに胸部を押さえた。
「……苦しい」
だが、不思議と嫌ではなかった。
クロはゆっくり目を閉じる。
「これが……恋愛感情」

その瞬間、胸部内部でエモーションチップが強く光を放った。

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