第65話
第4章「笑うクロ」
朝礼前の食堂には、まだ人も少なく静かな空気が流れていた。いつものメンバーも窓際の席へ集まっている。セイヤは朝食を食べながらアナライザー・パッドで今日の予定表を確認していた。
エミリアはクロをちらちら見ながら、小さく首を傾げる。
「……やっぱりなんか変なのよね」
ミリィがパンをくわえながら聞き返した。
「クロが?」
エミリアは頷く。
「人間っぽいっていうか……なんか悩んでる感じ?」
ヴァルも静かに頷いた。
「……少し、違う」
クロ本人はきょとんとしている。
「変化は確認できません」
その横で、ポックスとリュウジだけが露骨に視線を逸らした。
ミリィがそれに気づく。
「あれ?二人ともなんか怪しくない?」
リュウジが慌てる。
「いや!?別に!?」
ポックスは即座に平静を装った。
「気のせいです」
エミリアはじーっと二人を見る。
「……怪しい」
クロは不思議そうに首を傾げた。
「私は通常稼働です」
ミリィは少し考えた後、ぽんっと手を叩いた。
「そういえば前にセイヤがクロの悩み相談受けてたよね?」
エミリアが思い出して吹き出す。
「あれはひどかったわね……!」
リュウジも笑う。
「爆睡バグと爆食バグが治らなくて困ってます、って真面目に相談したやつだろ?」
ミリィは笑いながらセイヤを見る。
「で、セイヤなんて言ったんだっけ?」
セイヤは真顔だった。
「眠い時は寝て、腹が減ったら食え」
数秒の沈黙。
エミリアが机に突っ伏す。
「だからそういう問題じゃなかったでしょ!!」
リュウジが腹を抱える。
「雑すぎんだろ!!」
ポックスも深いため息をついた。
「原始生命体レベルの解決法です」
ヴァルは静かに微笑んでいた。
「……でも、少しセイヤらしい」
ミリィは涙を浮かべながら笑っている。
「あはははっ!」
クロは静かにその会話を聞いていた。
そして……
「……ふっ」
小さな笑い声に全員が止まった。
クロ自身も驚いたように目を見開く。
「……?」
胸部コアが熱を持つ。
「今のは……」
クロは小さく呟く。
「面白かった、のでしょうか」
リュウジが勢いよく立ち上がる。
「お前今笑ったぞ!?」
セイヤは本気で心配した。
「故障か!?」
エミリアも驚いていた。
「クロ……今の、自然だった……」
ミリィは目を輝かせる。
「クロもっと笑って!」
クロは戸惑っていた。
「分かりません」
「ですが今、内部演算が非常に不安定で――」
その瞬間だった。
クロの内部で、過去の記録が次々再生され始める。
『風紀を司る者、セイヤ=カミヤだから』
『なんで泣きながら敬礼なんだよ!!』
『プリンに同調しろ♪』
『眠い時は寝て、腹が減ったら食え』
クロの肩が震える。
「……ふっ」
「……あは……」
リュウジが嫌な予感を覚える。
「おい待て」
次の瞬間。
「あははははははは!!」
食堂中が静まり返った。クロは机を押さえながら笑っている。
「今、理解しました……!」
「みなさん、ずっと面白い事を言っていたのですね……!!」
リュウジが吹き出す。
「遅ぇよ!!」
ミリィは机を叩いて笑っていた。
「クロ壊れたー!」
ヴァルも珍しく声を出して笑っている。エミリアは笑いながらも少し驚いていた。
「そんなツボだったの……?」
セイヤだけは真顔だった。
「俺は真面目に話している」
クロは笑いながらセイヤを見る。
「それが面白いのです……!」
リュウジがさらに吹き出す。
「やべぇ、クロがセイヤ攻略し始めた!」
クロは笑いながらも、ふと胸を押さえた。視線の先でミリィがまだ笑っている。エミリアも肩を震わせている。ヴァルは静かに微笑んでいた。胸部コアが再び熱を持つ。
「……?」
クロは小さく呟く。
「胸部温度上昇……」
その様子を、少し離れた場所からポックスが見ていた。
アナライザー・パッドには情動反応ログが高速で流れている。
ポックスは静かに目を細めた。
「まさか……もうそこまで……?」
その夜、クロは自室でアナライザー・パッドを開いていた。
検索履歴が並ぶ。
【笑いが止まらない】
【胸部温度上昇】
【特定人物を見ると演算負荷増大】
【これが恋か】
クロは静かに呟く。
「……恋愛感情?」
胸部内部で、エモーションチップが淡く光っていた。


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