宇宙生徒会長セイヤ 第69話「ポックス、常連になる」②前編

2.宇宙生徒会長セイヤ

第2章 前編 「ヴァル、アルバイトを始める」

前回のあらすじ
居酒屋を一人で切り盛りするクロの超人的な働きぶりを見かねたヴァルは、料理を学ぶことも兼ねて手伝いを申し出る。クロは即座に採用を決定。ミリィとエミリアも加わり、ヴァルの制服選びで盛り上がる一同。こうして店に初めてのアルバイトが誕生し、新たな仲間と共に居酒屋クロの夜はさらに賑やかさを増していく。

翌日、居酒屋クロの開店準備中のこと。 店の前には、少し緊張した面持ちで暖簾を見上げるヴァルの姿があった。彼女は何度もエプロンの裾を整え、慣れない格好に落ち着かないのか、手持ち無沙汰に指先を動かしている。
新しく用意されたのは、黒地に腰ポケットの縁取りとして桜が描かれたエプロン。それに清潔感のある白いシャツと、引き締まった印象を与える濃紺のバンダナを合わせている。 いつもの服装とは違う、その柔らかな装いは、彼女の新しい一面を引き出していた。

「……似合ってるかな」

鏡のない店内で、ヴァルは所在なげに小さく呟いた。
その時、店の扉が勢いよく開き、クロが姿を現した。藍色のはっぴを羽織り、額には潔くハチマキを締めている。どこからどう見ても、気合の入った居酒屋の大将そのものの姿だ。クロは足を止めると、無機質な視線で数秒間、じっとヴァルを観察した。

「問題ありません」

クロは淡々とした口調ながらも、その瞳には確かな肯定の色を宿して告げた。
「……そう?」
ヴァルが不安げに小首をかしげると、クロはさらに言葉を重ねる。
「店の雰囲気とも適合しています。接客担当として、申し分ない外見的整合性です」
クロらしい独特な言い回しではあったが、それが彼なりの最大級の賛辞であることをヴァルは知っている。彼女は少し安心したように、ふわりと微笑んだ。
「よかった……」
その時、ガラガラと勢いよく扉が開いた。
「おっ、やってるか――って、うわっ!」
入ってきたのはリュウジとミリィだった。二人は暖簾の前に立つヴァルの姿を見るなり、一瞬で目を輝かせた。
「かわいい!! ヴァル、めちゃくちゃ似合ってるじゃん!」
ミリィが弾んだ声を上げ、リュウジも大きく頷く。
「マジかよ、よく似合ってんじゃん! 看板娘の誕生だな!」
「……そうかな」
仲間たちからの直球な言葉に、ヴァルは少し照れくさそうに視線を泳がせた。
「絶対人気出るって! ねえ、クロもそう思うでしょ?」
ミリィが同意を求めると、クロは表情を変えずに頷いた。
「肯定します。ヴァルの加入により、店全体の戦力向上が期待できます」
「ははっ、たしかに戦力アップ間違いなしだな!」
リュウジも豪快に笑い、二人の賑やかな声が店内に響いた。

 やがて、夜の帳が下りると共に営業が始まった。ヴァルは慣れない手つきながらも、ホール担当として店の中を懸命に動き回る。
「いらっしゃいませ……っ」
少しぎこちないが、背筋をピンと伸ばした丁寧な応対。その初々しさに、カウンターに座っていた常連客の男性が目を細めて笑いかけた。
「おっ、新人さんかい? 見かけない顔だね」
「……はい。今日から、その……お手伝いをしてます」
ヴァルは少し頬を赤らめながらも、しっかりと客の目を見て答えた。
「いいねぇ、店がパッと明るくなった気がするよ」
「ありがとうございます」
ただそれだけのやり取りだったが、客の反応は驚くほど良かった。彼女のひたむきな姿勢が、店内に穏やかな空気をもたらしていた。
 開店から数十分が経過し、店内は活気に包まれていた。
「お姉さん、追加注文お願い!」
「こっちお会計!」
「焼き鳥、タレでもう一本!」
次々と上がる声に、ヴァルは目を回しながらも懸命に応えていく。そんな彼女の様子を見て、クロが厨房からひょいと顔を出した。
「ヴァル」
「はいっ」
「接客評価が極めて高いようです」
「……そうなの?」
不意にかけられた言葉に、ヴァルは小首をかしげた。
「先ほどから、客の滞在時間が平均十五パーセント増加しています。リピート率の向上も期待できる数値です」
「分析やめろっての。もっと情緒ある言い方できねえのかよ」
無機質な報告を続けるクロに、リュウジが呆れたようにツッコミを入れる。すると、隣で見ていたミリィが楽しそうにヴァルの肩を叩いた。
「つまり、ヴァルがいるおかげでみんな居心地がいいってことだよ!」
「……そう、なのかな」
自分の働きがそんな風に受け取られているのだと知り、ヴァルの頬がふわりと緩む。彼女は少し照れくさそうに、けれど嬉しそうに、はにかんだような笑みを浮かべた。

次章に続く

コメント

タイトルとURLをコピーしました